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2007年12月 4日 (火)

二輪車は奥深い

 さて、自分は結構改造好きである。単車も自転車もそうである。
 ところで、改造といっても色んな改造がある。パワー中心の改造、作動性改善のための改造~操縦性の変更迄様々である。

 パワー中心なら、単車では、エンジン載せ替え、ボアアップ、キャブ、カム、マフラー、チャンバー交換等々、自転車では駆動系ギアレシオの見直しと体力アップってところか?作動性改善ってテーマなら、軸受の抵抗軽減、ダンパー類稼働部品の摺動抵抗低減ってのがそうである。
 ところが操縦性の変更っていうと、これは一番難しい気がする。何を以て良しとするか?変更が改良になっているか否か?

 大昔に遡ると、RZ350Rの改造で、エンジン周りの改造では別段何か神経質になったか?というと、何も考えていなかったけど、何と言っても、当時1985年頃、殆どの人が行っていなかった足回りのスワップは結構怖い思いもしたし、この手の改造の難しさを肌で感じたモノである。当時は16inchの前輪のモデルが流行していた事もあり、何も考えず(とは言っても当時なりに考えて)当時のヤマハ系16inchの足回りを移植した。勿論、キャスター、トレールは移植元の単車の数値に近づけるべく、三つ又近辺のワンオフパーツを何通りか作り、乗っては確認の作業を繰り返したのであるが、当時の感想として、真っ直ぐの道以外の峠道では、改造前と同じように身を委ねた走りってのは結局出来ずじまいだった。
 その理由は、自分でやったスケルトン変更の操縦性の過敏さ、恐さを感じた事と、それをやることで単車が信用出来なくなった事であり、同時に、設計者や開発者、テストライダーの方々の凄さを思い知ったのでもある。

 それ以来、関連性の全く無い車両間での足回りのスワップは行っていない。やるとすれば、作動性の良いサスペンションへの交換、バネレートの見直し、ダンパーオイルの番手の見直し程度である。
 自転車の場合は、凝っていた時代が中学高校時代であり、スケルトンを変更するって考えは無いので、特に何も考えていない。

 しかし、最近は西DAHONという変な自転車を改造するにあたり、自転車も単車同様に二輪車だなぁ?と思い、DAHONという小径車故の癖を解消するには?という考えで、自転車の操縦性について考える事が多くなってきた。

 自転車や単車のような二輪車では、安定性を決定づける要素に、キャスター、トレール、オフセットという3つの要素がフロント周りに隠れている。簡単に各々の意味を言うと、

・キャスター
 フォークの傾きである。キャスターが大きくなるほどにフォークは寝る。
・トレール
 フォーク旋回軸を延長した地面との交点とタイヤと地面の接点間の距離
・オフセット
 トレール量を調節するためのフォーク旋回軸中心とホイール回転軸中心の距離

 である。
 難しい話は省略して、キャスターが大きい(フォークが寝る)程、トレール量が増える。ホイール直径が大きい程、トレール量が増える。トレール量が増える程直進性が高まる。トレール量を大きくする事で進行する力で前輪を引っ張る力が生まれ直進性を保っている訳であり、この距離が安定性に大きく作用している。そして、フォークを寝かせたり、ホイールサイズを大きくしたりしてトレール量が増えすぎる弊害を緩和するためにオフセットを与える。オフセットを与えると、タイヤと地面の接点が前方に移動し、結果的にフォーク旋回軸延長線と地面の交点迄の距離、即ちトレールが減少する。
 因みに、このような動きから旋回に到る過程では、旋回軸が傾いた時に、車体全体の旋回速度の大小はホイールベースの長短で決まる。ホイールベースが短いと、小さな操舵角でも向きが大きく変わるし、ホイールベースが長いと小さな操舵角では向きの変わりだしが緩慢となる。操舵角の過敏さによる車体全体の挙動の安定性を確保する、或いは前後の重量バランスを換えて、内力的な旋回トルク値を調整するためにホイールベースを選ぶことで対処できる。

 ところで、自転車と単車の直進性を考えると一番大きく違うのは、単車の場合は、ステアリングに乗り手が積極的に内力としてトルクを掛ける事が無いが、自転車の場合は、その限りではない。ペダリングのみならず、下りのコーナーリングでも単車と自転車は全く異質なモノであり、結果、ハンドルグリップ部には乗り手によるトルクが作用してしまうものでは無いだろうか?

 スケルトンの生む素直な直進性や操縦性に対して、乗り手からの内力的なトルクが大きく影響するのが自転車と単車の違いのように思う。この内力的なトルクが車体の持つ安定性への影響度が大きい程、乗りにくい自転車になる。車体の生む安定性は、先にも述べたがトレール量で決まる。この距離が或る程度無ければ安定しないが、その安定する効果(復元力、センタリング力)をうち消すような大きなハンドルの旋回トルクを与えるような構造は、操縦性を悪化させる。(幅広いハンドル幅で引いて運転すると揺れるというだけの話。)

 自転車の場合、ハンドル幅は肩幅であるが、ステムの突き出しにより旋回トルクは実際のハンドル幅以上の値となる。世の中で販売されているステム長を見ると、概ね100mm前後のモノが多いけど、これは、このステムを用いる自転車にとってバランスを崩さない黄金値のような値であろう。(正確な計算を行えば、フルサイズの自転車で良いとされる操縦性を得るには100mm前後となる筈で、普及して一般化した値には意味があるのは道理)
 つまり、700Cフルサイズで適度なオフセット(フォークの曲がり)を持つ自転車で、直進性、操縦性が調和した状態を作るには、ステム長として100mm程度が適切って事でもある。

 今回、西DAHONでステムの突き出し=0mmとしたのだが、これで随分乗り易くなったのが、この記事の発端だが、20インチの小径車では、元々700Cサイズよりトレール量が少ないために直進性自体は劣っている。直進時における復元トルク値自体がフルサイズの自転車より小さい訳であり、この小さな復元トルクを如何に阻害させないか?が乗りやすさの鍵ではないか?と言う事である。
 以前の突き出し60mm仕様の西DAHON、オ・モイヨWWの90mm突き出し仕様、試乗したレ・マイヨM、ルイガノMV3Bで感じたのは、グリップに力が作用した状態でのふらつき感だが、これは乗り手の内力による旋回トルクが車体の外力から直進性を回復させる復元トルク以上となっているかのようなふらつきを感じたけど、オフセットゼロ仕様西DAHONとかスピママでは、そういうふらつきは皆無である。引きを掛けまくってもふらつきが増幅せず収束傾向に変化する。

 この傾向は、色んな自転車に乗って、色んな改造を行って再発見したモノだが、結構興味深い挙動である。

 そして、こういう知識(違うかも知れないが、、、)で、既存の自転車を見ると、小径車で長いステム突き出し+グリップが先に延びたハンドルを持つモノってのは、本気で走ると相当に怖そうである。っていうか、仮想ハンドル幅が広く大きな旋回トルクが得られる構成ってのは、もっと低い速度域で路面からの外乱をゆるりと受け流すための構成と考えた方が自然かもしれない。パーツの見た目に惑わされてガンガン行くのでは無く、構成上はハンドル幅が広い低速自転車という事である訳で、ポタリングを楽しむための存在ってこと。小径車故の過敏な操縦性をステアリング保持力で安定性を出すってのが殆どの小径車のステム回りの構成のように見えるが、場合によっては諸刃の剣のようにもなりそう。
 つまり、ロードをミニチュアで造ったホビーマシンって事なんだろうか?そういう目で見ると、走りの小径!って売りの小径車を見て、踏めそう!って思える車種は案外少ない気もする。以前にも書いたけど、この辺がモールトンとかタイレルの価値なのかもしれない。それ以外の小径車は流行モノ、際物的色彩が強い。
 少なくとも小径車で速度云々を言うならば、安定した車体が必須だが、トレール量を確保するのが必須であり、キャスター角を確保するってのが必須だが、それでハンドリングに軽快感を出すためにオフセットを確保すると前方にかなり伸びたフォーク周りになりかねない。そうなると、強度、剛性的に厳しいのかもしれない。ならば、キャスター角は程々に、オフセットも程々にという構成だが、トレール量が少ないために、ステム長も短く無いと成立しないかもしれない。窮屈なフォーク周りを承知で安定性を得るためには、後輪を後方に追いやるようなホイールベースが必須となる。
 こういうスタイルの小径車ってのは、パッと見渡す限り、モールトン以外にはあんまり居ない気もする。

 因みに、今回の西DAHONの改造では、前後の重量配分を換えるべく、ポジションを後に置いて、その方法としては駆動時、ダウンヒル時にハンドル周りに作用する旋回トルクを減らすべくステムの突き出しを限りなく無くし(つまりはゼロにして)、乗車段階でのハンドルへの重量配分を減らす事を最大の目的に50mmほどアップライトにしたという事。
 一応、理屈としては先の持論に基づいた変更である。

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