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2008年4月30日 (水)

船舶バラスト水処理問題の発端は?

 技術系の戯れ言としては、素材、複合材料、セラミックス、摺動システム、摺動材料・・・関連が殆どだが、お客様の中には『海水 殺菌 バラスト』でお越し頂いた方もいらっしゃる模様。で、お越し頂いた記事は、

http://replica2st.cocolog-nifty.com/diet/2008/04/post_ef73.html

 であるけれど、その検索ワードでググルと、出る出る!出まくりである。
 で、ネットで出る情報は虚飾が多すぎで、どのシステムもメリットを唱いすぎ。デメリットが全く触れられていないのが笑える。

 言えるのは、どんな原理原則でも現状では決定打となるコア技術が定まっていないと言う事。結果、物理処理、化学処理を複数組み合わせて機能を達成するという事。
 その複数のコアからシステムが成立するという話だ。

 さて、この話、勤務先でもプロジェクトを設立して取り組んでいるが、自身、外部の人間(それゆえ何してるか知らないけど、、、)として、企業の守秘義務の範囲外で、全く個人の知識として、このバラスト水殺菌の話の経緯を記事にしてみると、、、、、、

 遡る事15年前の1993年における沿岸海洋研究ノートという技術雑誌に掲載された学会発表稿が発端である。
 そのタイトルはネット普及前なんで知らない人の方が多いと思うけど、

『バラスト水による有害海洋プランクトンの移動と生物海洋汚染の広域化』って主題で、サンプルをオーストラリア・タスマニアを汚染する日本から運ばれた生物をネタとした論文が起点である。バラスト水処理技術は一見、日本の企業グループが先行して環境先進国的なイメージを持つ日本人が多いのだが、元々はオーストラリアの研究者がネタ探しで見つけた漁業被害であり、その犯人が日本から来た貝毒であるというのが最初であり、現在の世界的な環境問題の元は、日本からオーストラリアに輸出?した漁業被害であり、その元凶である加害者が日本だというのが何とも皮肉である。

 この論文の元となる生物が渦鞭毛藻(Gymnodinium catenatum)って生き物。この生物が原因で麻痺性貝毒を引き起こすのだが、この藻類は群体を作り、その群の程度で名前が変わる生物で、アレキサンドリウム・タマレンセ、アレキサンドリウム・カテネラ、ギムノディニウム・カテナータムって変化する。
 この藻類プランクトンが群体を作らない状態であるタマレンセでは髪の毛の太さの1/10以下。群体が数個の状態でも長手方向が髪の毛の太さ程度。カテナータム状態では細長い状態。

 話が前後するけど、この麻痺性貝毒は、中毒症状が激しく、あのオウム事件でもあったVXガスとかサリンと同じレベルの毒物に指定(日本での話だよ。)されており人命にも拘わったりするものであり、当初は、環境云々の前に人の命に関わることで論文に取り上げられたという経緯を知る人は少ない。(勤務先のプロジェクトメンバーも知らないだろうなぁ、、、)
 因みに、貝毒の種類を挙げると、麻痺性貝毒(PSP)でサキシトキシン群、下痢性貝毒(DSP)でオカダ酸、ディノフィシストキシン、イェットトキシン、記憶喪失性貝毒(ASP)でドウモイ酸、神経性貝毒(NSP)でブレーベトキシン、ジムノジミン、シガテラでシガトキシン、ガンビエルトキシン、マイトトキシン・・・・等々結構沢山あるのだ。
 貝毒発生のメカニズムは省略するけど、貝毒の構造式からみるとアルカロイドの一種であり、サキシトキシンの他に誘導体が22種類存在する。

 この貝毒原因の渦鞭毛藻はシダ植物の如く生活環を持っており、その状態によっては耐性が大幅に異なるという厄介な生物。生物にとって不都合な環境になれば忍者の如く形態を変化させるのが、こいつの凄さである。こいつの休眠状態は温度変化や圧力変化にも極めて強く、並大抵では殺す事が出来ないのだ。普通、海洋生物の殆どは塩素殺菌が有効だが、こいつの休眠状態は塩素殺菌にさえ耐えるという嫌らしい性質。この休眠状態は泥に紛れており、専門用語では休眠性接合子(シスト)と呼ぶのである。これが一匹残れば結果は未処理と同じなのである。コイツの呼び名で『タマレンセ』ってあるけど、冗談で耐性の強さを見て『タマランゼ』なんて読んでいたのがエンジニア仲間での笑い話だった。この耐性迄を理解した殺菌システムでなければ全く意味がないのだが、その辺の知見は、造船、機械メーカーのエンジニアには少ない感じである。寧ろ、水産関係、化学関係のエンジニアの方が上手だろう。こうなった理由は、日本の縦割りシステム故の情報流通度の貧しさから招いた事態とも言える。

 この有毒プランクトンがどうなるか?っていうと、これが牡蠣、貝に摂取されたり、藻類に付着して毒物が蓄積し、これを人間が摂食することで中毒が発生するという。近年では平成10年二月の新聞記事だが三瓶湾で牡蠣から麻痺性貝毒が発生、規制値の40倍で4人に痺れが出たという話もある。ある年度からデータを取り出すと、日本では年間17県で発生し、貝毒のための規制のべ日数は3000日に迫るのである。この漁業被害こそが問題の本質であり、その漁業被害の元が、プランクトン輸出?による生態系破壊ということで最近話題になっているのである。

 さて、本来は、こういった生物の特性に合わせた(ターゲットを絞った)殺滅システムがシステム内のコアとしての存在価値を高めるのだ。一つのコア技術では国際ルールが要求する殺菌能力は実現出来ないんで、コアに意義を持たせる(技術毎に特化した殺菌能力を持たせる)という発想が技術開発には必要というのが持論だ。

 因みに、この貝毒の原因の渦鞭毛藻の耐性から言えば、バラスト処理システムで名を売っているオゾン処理、紫外線処理、最強の化学処理である塩素を用いても全く無力である。

 そんなレベルであるのだが、隠す事も無い話なんで。折角、お客さんが来たんで知っている情報を書いてみたりする。

 全く個人的に興味があるのは、三菱重工さんと日立さんが共同で行っている磁気凝集分離って方法。他のオゾン、紫外線はスケールアップ困難だしエネルギー的に見合わない。化学薬剤投与法は陸上基地側でのインフラ整備を考えると一時のモノって感じ。

三菱、日立は
http://www.mhi.co.jp/news/story/080407.html

住友電工は、
http://osaka.yomiuri.co.jp/eco_news/20080101ke01.htm

 鍵はこの辺が握ってる。俺も全く磁気関連技術をコアシステムに用いるのが最適だと思う。プランクトン等微生物をターゲットにする場合、圧力変動、温度変動、薬剤から通常の濾過は効率が悪すぎ。凝集というプロセスを介在させる事で、どんな処置と組み合わせても効率はアップするのは間違いない。磁気凝集ってのは最良の策のように素直に感じる。

 ところで、この分野の私の基礎知識は1997年の段階で、水産試験場の方と話をする中で、湾内海水の垂直循環システムで赤潮発生を抑えようって議論が出た頃から考えて得たもの。その海水処理イメージから暖めているアイデアを具現化するために調べたモノ。結果、今、誰もやっていない案もある。この案は、自分で勝手に夢見るアイテム的なモノに過ぎない。装置的にはコンクリートボディによる怪しいデバイスだけど、旨い具合に機能することが実証されれば、その内記事にするかもしれない。因みに、試験レベルでは効果は確認済みだし、論理的に成立する理論による装置なのは当然だ。キーワードとしては磁気、凝集って部分は同じ。個人的には泡沫分離に魅力を感じる。話が脱線するけど、凝集となると凝集フロックが出る。このフロックは造粒することでハンドリングを楽にすることもできるけど、自身、材料開発における造粒装置も発案して転動増粒装置開発にも携わった事がある。必要な機器類自体に親近感を覚えることもあり、それ故に、イメージしやすい事から、日立、三菱さんや住友電工さんの方法が良いと思うのかもしれない、、、、。

 勿論、この話は勤務先のエンジニアの誰も知らない話であり、私の戯言だ。

 さて、そういう話なんだが、狭い地球という閉じた空間で生活活動が活発になると、地球という系自体の乱雑さが増大し、系全体が一様な環境に変化するというのは、これまた、或る意味自然の摂理であり、熱力学の法則に従った現象そのものとも言える。
 既に、世界中を船舶、航空機が往来して何年が経過したか?を考えると、個人的には、このような生態系維持規制を施しても手遅れ。帰化した生物を選択的に自然界から取り除く事も困難。人間という生物の生活活動によって地球において旧来の系が新しい系に移行する現象の一つとも言える。

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コメント

バラスト水を用いる方法以外、現実的な選択肢は難しいですねぇ、、、。
何たってサイズがサイズですから、、、。
用いない方法というと、バラストタンクにスクープ開けて意図的な沈没状態で海水が連続的に出入りする方法くらいでしょうか?
でも航行時の抵抗は相当でしょうし、、、、

一番良いのは、船でモノを運ばない方法だったりして、、、、船も江戸時代以前の構造にするとか、、、、ハハハ。

投稿: 壱源 | 2008年4月30日 (水) 22時17分

そもそもバラスト水は不要にできないものでしょうか。
荷物の無い時はヨットのようにキール出すとか・・・

投稿: morimori | 2008年4月30日 (水) 21時49分

自分自身、この分野は規模が大きすぎなんで関心無いけど、殺菌という方法論を眺めると、紫外線は照射ユニットの単位が小さく、所要エネルギーが大きすぎ。オゾンは危険度が高く大容量の発生装置の実績が無い。陸上から薬剤を積み込んで処置する方法は、薬剤の後処理に加えて陸上設備のインフラ整備、需要薬剤の供給面からも今一。電気を用いるのは、システムを搭載する場所によっては制限されるし、海水に電気となると塩素が発生はデフォルトで後処理が大変。物理的な濾過、圧力変動による殺滅は、圧損に比例して分解能、処理能力が変わる。となると、厳しい規制値に対応するには相当な所要動力が必要である。

そんな事を考えると、個人的には磁気を用いる手法をコアに附属システムで成立させるのが一番と思う。
住友電工でも超伝導磁石で凝集、三菱、日立も同系、、、、自分のアイデアの結構近いけど、これに加えて泡沫分離装置を組み合わせる方法だが、このシステムのキーは、プラント内完結型のシステムで、爆発、火災リスクの無い、電気を用いない方法が一番だと思う。

今、昼休み。キーは磁気関連技術だと思う。対抗は次亜水関連の化学処理併用か?答えは数年後には出るだろう。

投稿: 壱源 | 2008年4月30日 (水) 12時52分

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