通電式焼結装置
先日、WC-SiC焼結体を秋田の技術センターが開発した話があったけれど、その新しい焼結体を作成したのが、10年前に話題に上っていた放電焼結式ホットプレス装置によるもの。
驚いたのは、10年経った今でも、放電焼結って手法で研究会が発足されて研究活動を行っているということ。
で、この放電焼結装置っていうのは、黒鉛モールドに焼結対象粉体を充填し、上下の黒鉛パンチを電極で挟み込みながら電流を流し、粉体抵抗を利用して発熱昇温させるもの。そのような基本原理を持つ焼結装置の中で特に、焼結初期段階で、通電電流をパルス電流とすることで、焼結粉体粒子間でショートさせて粉体表面の酸化被膜を跳ばし焼結性を高めるという機能を持った装置が放電焼結装置ってもの。
この放電焼結におけるパルス通電の効果の有無は未だ定かでないのが学会での認識。効果があるといえばあるし、無いと言えば無い。言える事は、酸化被膜の除去に効果があったとしても、最終的な粉体粒子間のネックを成長させて緻密焼結体を得るためのエネルギーに大きな差異が無いということ。
敢えて、効果を言うならば、通電式焼結装置では、粉体充填度の不均一性から、粒子の接触状況に斑がある場合、選択的に電気が流れ、その部分からの焼結が始まることで、スケールアップの際には焼結斑が生まれやすいという特徴を、初期のパルス通電により粉体抵抗を揃える効果が期待できれば、焼結斑が軽減できるという事か?
とまぁ、そんな装置なんだが、一番の問題は、発熱が焼結粉体の抵抗値によって決まり、焼結過程における最高温度部位は、黒鉛モールド内部の充填粉体の通電部であり、その温度計測が非常に難しく、不正確という事。
事実、秋田の技術センターでの焼結温度発表は1650℃とされているが、実質温度はモールド形状にもよるが、1800~1900℃近辺迄上がっていると予測される。
因みに、WC+SiCという系で1850℃迄温度上昇させて焼結させるというのは、WC単体での焼結が可能な温度でもあり、技術自体には何の目新しさが無いという事にもなる。
自身、WCをベースにした焼結材料の開発を進めたが、仮に新しい焼結プロセスを謳うならば、通常の焼結装置で正確な測温を施した上で、WC単体では焼結し得ない温度で焼結を進めてやらなければダメだと思うのである。
それはさておき、そんな温度管理の難しい通電式焼結装置だが、これは発熱に用いる電流の流れ方による特徴から来た欠点である。電気は流れやすい所を集中して流れるが、焼結過程において特定の部位に電流が流れ始めると、その部位を中心に集中的に電気が流れる事で、小さいサイズでも派手な温度勾配が生まれ、測温が困難になる。
この問題を解決する方法を考えた事がある。その方法は、モールド形状を通常の円筒形状から直方体形状にして直方体形状のX軸、Y軸からも通電用電極で挟み込むというシステムだ。勿論、加圧軸であるZ軸にも通電用電極を有した構造だ。
この構造は、見た目上からはXYZの三軸から通電可能な構造だ。そして一番の特徴は、通電軸を焼結過程において切り替える事で、電流の通り道を粉体内部で固定化させないという特徴を持つこと。更には、スイッチング周波数を変える事で、別の効果も期待できるのである。この効果は権利に纏わる部分故にオープン出来ないけど、このような通電経路の切り替え式通電焼結装置は一般には存在しない。
この手の研究から離れて久しいが、偶然、WC+SiCの発見記事を見つけたので、感想を書いてみたりした。
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