« 体重が少ない(例えば、脚が細い)のは良いのか? | トップページ | 昭和回想 »

2008年5月 9日 (金)

超硬合金等サーメットスリーブの過ち

 アクセス解析をしていると、先日のSiC-WC焼結体の開発元からのアクセスもあったようなので、一寸、それ系の雑談。

 さて、機械材料は分類方法にもよるけど、大きく分けて三種類が存在する。それは、

1.金属材料
2.サーメット
3.セラミックス

という風に分ける事もできる。上から順に、硬さが増す一方で、脆くなり靱性が失われるというモノ。一般に、硬いモノは脆いという原理に則ったもの。この分類では、材料中に含まれる金属分の割合で区分したもので、1が金属、3が無機材料で、2が無機材料を金属結合相で固めたモノ。2の材料は比較的硬く、比較的強いという優れものである。

一般に、金属材料と無機材料を較べると、融点は無機材料の方が遙かに高いのだが、サーメットでは、結合相金属の融点以下で材料を結合させる事が出来、硬さと強さを高次元でバランスさせた材料の筆頭が、超硬合金って材料だ。超硬合金というのは、炭化タングステン(WC)を結合相金属であるコバルト(Co)かニッケル(Ni)で固めたモノだが、この超硬合金は製造元によって様々な添加剤、様々な組成で非常に多くの種類が出回っている。そして、その硬さと強さの両立性から工具を筆頭に多く普及している材料だ。

この超硬合金系材料(ユーザーによっては特殊合金と呼ぶ事もある)の近年の使い方で顕著なモノは摺動材料である。
摺動材料は、摺り合わせであり、二種類の材料が必要だ。摺り合わせ機構の代表的な機械部品が滑り軸受であるが、滑り軸受は回転側摺動材と固定側摺動材から構成されている。そして、回転側(軸側)摺動材に、この超硬合金が広く用いられているのである。

さて、超硬合金を滑り軸受の軸側摺動材に用いるというのは、この業界では殆ど常識化されているのだが、最近、思うのは、この使い方は大きな危険性をはらんだ、誤った常識ではないか?と思う事が多い。

一般に、軸側摺動材というと、機械の回転軸に被せた形で用いられており、回転軸は機械の構成部品ということで、普通はステンレス鋼等の金属材料であり、滑り軸受機構の業界スタンダードでは、ステンレスシャフトに超硬合金製スリーブ(摺動材)を嵌めて使うのである。

このような摺動部品は、一般にどの様な環境で使われるか?というと、硬質材料を用いると言う事で、普通は硬質スラリーを含んだ土砂中での摺動である。土砂中摺動と言う事で、その潤滑を司る液体は、清水であることは稀であり、海水のような腐食液であったり、ヘドロ、下水、廃油、原油のような液体であることが多い。
つまりは、そのような清浄でない固形性混ざりモノが多い液体中で使われる事が多いのである。

この前提において超硬合金を回転軸側摺動材料に用いる場合のリスクは何があるか?と整理すると二つの問題がある。

一つ目は、海水中のような腐食環境では、超硬合金とステンレス鋼を接触させて使うと、ガルバニック腐食により、超硬合金側が激しく腐食するというリスクである。実際、超硬合金を海水は勿論、清水中でも腐食するので結構リスキー。

二つ目は、線膨張係数の大きな金属軸に円筒形状の超硬合金を嵌めて使用すると、温度上昇によって金属軸の膨張が生じ、結果、円筒形状の超硬合金が破断破壊するというリスク。実際、潤滑液欠損や、潤滑液流量不足により温度上昇が生じると、円筒形状の超硬合金の破断が発生する事故は結構多い。

この問題を解決するには、耐食性を大幅に高めること。それに、靱性、強度を高め割れない物性を獲得することとなるのだが、超硬合金が硬くて強いという理由である結合相金属であるNiやCoの代替えが見つからない限り難しいのが現実である。
代替えによるWCの成型手法が見つかっても、上述の問題を解決する系の発見には到っていないのが現状であり、少なくとも、滑り軸受における回転側摺動材のような材料に超硬合金を用いる事はナンセンスである。

少なくとも、このような用途においては、硬くて絶対に割れないような材料を用いなければならない。そう思うのである。

|

« 体重が少ない(例えば、脚が細い)のは良いのか? | トップページ | 昭和回想 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 超硬合金等サーメットスリーブの過ち:

« 体重が少ない(例えば、脚が細い)のは良いのか? | トップページ | 昭和回想 »