超硬合金、こぼれ話
最近は、検索ワードで『超硬』、『脆性』、『結合相』、『Co』のような検索でお越し下さる方もいらっしゃる様子。
ということで、折角なんで一般論的に知ってる話を少々、、、、
超硬合金っていうのは、超(ちょう)硬い特徴から呼ばれている慣用名称。で、正確には合金というには難しいもの。合金というよりも、炭化物を金属結合相で固めたサーメットのような物質であり、セラミックスと金属の中間的な物性を持つ材料で、基材がタングステンカーバイト(WC)であるサーメットの総称である。多くの場合は、基材であるWCが70~90%で構成されており、結合相金属としてはメジャーなものがコバルト(Co)、次いでニッケル(Ni)を用いている。この亜種でNi-Cr合金等を用いるものがあるけど、大きく分けると、結合相がCo系の磁性超硬合金とNi系の非磁性超硬合金に分類される。
この2種類の用途は、前者の方が硬度が低いものの高強度で強靱という特徴で、後は耐食性に劣るという特徴から、一般には刃物、工具材料に用いられる。で、後者の方は硬度が高いものの若干靱性に劣るのだが、耐食性に優れるという特徴から、滑り軸受の回転軸スリーブのような摺動材料に用いられることが多い。因みに、前者のモノの硬度はHv≦1200が多く、後者のモノはHv≧1300が多い。
大体、そんな感じだが、この材料の泣き所は、大気中で高温酸化に異様に弱い事と、材料を固める結合相金属無しでは強度的に期待できる材料を得ることは困難という点で、結合相金属を用いることで耐食性の確保が非常に難しいという事。
それ故に、慣用的に特殊超硬合金という名目で大手メーカーからリリースされた耐食性超硬合金、結合相レス(バインダーレス)超硬合金ってのがラインナップされているけど、それとて、極微量の結合相を有しているのが現実であり、本質的な耐食性の確保を実現した系は存在しないものである。
勿論、基材自体がWC(タングステンカーバイド)であり、通常の炭化物同様に融点近辺迄昇温加圧すれば焼結体を得ることが出来るけど、非常に脆く、低強度な材料しか得る事が出来ない。因みに、Coバインダーを用いると1200℃近辺で焼成可能、Niバインダーなら1450℃程度で可能で、WC単体での焼成では1850℃程度迄上げれば可能であるが、曲げ強度で比較すると、Coバインダーなら2.6[GPa]、Niバインダーなら1.5[GPa]確保できるところが単体焼成では450[MPa]程度の強度しか得る事が出来ない。
そんな常識の範疇で多くのエンジニアは正攻法でバインダーミニマム、強度最大を目指し、原料粉体の超微粒化を試みる等の涙ぐましい取り組みを行っているのが現状だ。
ところで超硬合金の基材であるWC、主な結合相であるCoは、中国内陸部で殆どが産出されており、これを調達し続けるのは、今回の四川大地震もあり結構難しいかもしれないのだが、工具、摺動材料としての需要は減る事は無いというのが予測。
工具の場合、バイト、チップレベルでサイズ的に非常に小さいけれど、これが摺動材料となると相当なボリュームが必要であり、これは非常に高価になる要素をはらんでいる。
そして、摺動材料に非磁性超硬合金を用いる理由は、硬度、強度、耐食性を要求しているからに他ならない訳であり、硬度、強度、耐食性が要求される摺動環境というのが産業として大きなボリュームを持つのも事実である。
そういう前提で、私もWCをベースにNiやCoを全く使わず別の炭化物、酸化物の複合化によって比較的高強度の焼成材料を開発したりした(Co、Niを全く用いずに焼成し、析出強化機構等を駆使して曲げ強度で1[GPa]以上を実現した)けれど、所詮、WCベースであり、これを摺動材料に用いると大型部品程に価格的、品質的に難しい問題を抱える事となる。そこで、WCのように摺動材自体に硬度を期待せずとも成立する機械システムを考えようというのが今であり、上手く行けば、このようなレアメタルを全く使用しないで機能するモノを生み出す事が出来るかも知れない。
超硬合金用資源の獲得競争も、原油、鉱物資源同様に勃発するかもしれない(というよりも既に競争となっている。因みに原料WC粉体はキロ単価は今は一昨年の2倍以上だ。)が、それに打ち勝つには先にいった強い通貨を武器にして買い占めるというのも手だが、既存の先入観というか価値観の上での発想から転換した発想により、高価な材料を使わずとも、より高性能を実現するようなアイデアを武器とするのも有効な手立てだと思うのである。ニュースでやっていたけど自動車メーカーが20年の歳月を掛けて電池を開発する。そして、電池を開発したメーカーが自動車メーカーとして生き残れるなんて話と似ている。
つまり、勝手な考えだが、これからのエンジニアは機械設計者であっても材料開発、材料設計、装置設計等も同時に行える資質が競争力確保の上で必要ではないだろうか?と思う。
仮に、プログラミングであっても言語が使えるだけでプログラムの内容の誘導等も出来なければ効率悪いし、機械設計の前に、要素を理解し、要素を構成する物質が存在すれば物質の物性や特性、相性も理解しなければ最適な解は得られないのでは?と思う。こういうハイブリッドな思想が無ければ製品(技術)に革新は生まれないのでは無いだろうか?
纏めると、超硬合金の開発者は物性を追い求めるだけでなく、それが、どこで、どのように使われて、何が期待されているか?その必然性は果たして材料物性のみに依存して良いか?優れた材料が唯一の解か?を考えて、材料開発者であっても機械設計も必要だし、逆に、機械設計者でも要求する物性のみを掲げ探すでなく、要求する物性がなくても機能する仕組みを考えるセンスが必要ではないか?っていう話である。
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