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2008年8月30日 (土)

ゲリラ雨と先行待機運転ポンプ

 夏の終わりに特に多く、最近では、温暖化、都市化も複合的に加速因子となって多発しているのが表題の雨。昔は局地的集中豪雨という表現だけど、最近では『ゲリラ雨』って言うらしい。金曜日は広島でもゲリラ雨とは違うけど久々に纏まった雨が降っているので、一寸リアルというか真面目な記事でも書いてみようか?

 このゲリラ雨は極限られたエリアで異常発達した積乱雲によってもたらされるモノで、異常発達積乱雲というと、大気の状態が異常に不安定となる状態で作られる。異常に不安定な状態というと、地表が異常に高温となって、上空に寒気が入った時だ。地表の異常高温というと、大きな意味では地球温暖化っていうのも絡んでくるモノだろうけど、支配的な要素としては、都市化による地表付近の温度上昇によるモノだろう。コンクリート化、アスファルト化による照り返しとか、空調機器類による排熱、或いは、自動車等熱源の増加が都市化ファクターの重要な要素だ。

 そんな状況によって最近特に話題となっているのが、表題の『ゲリラ雨』である。

 このゲリラ雨っていうのは、人口が特に密集した都市部で多発するもので、時間あたり雨量でいうと100mmを越えるのも珍しくない。この100mmに急激な降雨によってもたらされる雨水は、コンクリート化した都市では行き場を失い地表面であふれ出たり、狭い河川に一気に流入する事で、人の財産や命に甚大な被害をもたらすのである。
 この夏も、車に閉じこめられて命を失ったり、河川で遊んでいた人が亡くなったりと結構な被害を出している。

 そんな被害を食い止めるには?正攻法というと、都市化を食い止め、アスファルトを剥ぎ、コンクリートを剥ぎ、自動車、排熱機械の使用制限を掛けたり、、、、、って事になるのだろうけど、これは一般論として有り得ないのだろうか?
 で、現実論は、地表に一気に溢れ出ようとする雨水を地表に溢れ出さないための人工的なウォーターチャンバー、サージタンクを儲ける対策を行っているようだ。

 このサージタンクが所謂、地下水槽で、最近はテレビ番組でも紹介されている都市地下に存在する巨大空間がそれに該当する。

 この地下水槽は何時もは空っぽであり、集中豪雨が発生したら雨水をこの空間に一時的に溜めることで地表に水が溢れるのを防ぐ役割を担っているのだ。しかし、地下水槽が如何に巨大であっても有限な容積であり、流入雨水は流入すると直ちに下流河川や河口に排出しなければ即座に満杯となる。この排出機器が陸上ポンプメーカーが躍起になって開発している『全力先行待機運転ポンプ』というもの。

 『全力先行待機運転ポンプ』は、地下水槽に雨水が流入する前から起動されるために、最初は全くの水無の空運転で起動される。しかも、起動回転数は全力運転されるモノである。それ故に、全力運転によって回転系各部には水無しによる無潤滑摺動、気中運転、空運転という状況に晒される訳だ。

 摺動部における水無し運転は、異常発熱による高温化が生じるために、そこで急激な雨水流入を受けると熱衝撃で損傷したり、損傷前に凝着摩耗したりするのがこれまでの常識である。
 勿論、水無運転状態においても摺動部において潤滑を司るシステムを入れれば問題無いけど、常に摺動部が潤滑されるスタンバイ状態を維持しようと思えば多大なコストとメカニズムの複雑化が不可避となるために、その本来の構造は最近は使われていない。
 それ故に、摺動部はポンプで扱う雨水自体で摺動を賄う構造がスタンダードとなっている。これが、問題で、雨水が無ければ摺動潤滑を行えないというジレンマを抱えるのである。

 そんな矛盾を叶えるのが本来的には扱う液体による潤滑機構ながらも、無潤滑状態でも損傷を受けない摺動システムという訳だ。
 この摺動システムに求められる性能は、下記の通り。

1.無潤滑でも損傷しない摺動特性、対破壊耐性
2.急激な雨水流入による熱衝撃に耐える耐熱衝撃特性
3.雨水という土砂流入に耐える耐摩耗性
4.雨水、海水等に耐える耐腐食性

 である。摺動とは回転軸を支える摺動であり、一般には『ころがり軸受』とは違い『すべり軸受』を用い、回転軸側と固定軸受側の材料と構造を工夫して用いられている。尚、軸は通常はステンレス鋼であり軸の周辺に回転軸スリーブという形で使われる。
 これに耐えるのに当初用いられたのが、軸材/軸側/軸受側の順で紹介すると、、、

1.ステンレス鋼/超硬合金/SiCやSi3N4(珪化物系セラミックス)
 耐摩耗性は優れるが、ドライ運転には使えない。発熱下ではステンレス鋼の膨張により超硬合金が割れる。超硬合金とステンレス鋼の間でガルバニック腐食が発生する。窒化珪素(Si3N4)は実は摩擦係数が大きい。異常損傷を受けると破壊が一気に進行する。熱衝撃に弱い。軸受側にセラミックスを用いると、セラミックス摺動材の大型化の限界により軸受摺動材が一体構造で作れない。結果、コスト高、潤滑水膜の維持特性が著しく低下する。

2.ステンレス鋼/超硬合金/炭素繊維補強型フッ素系樹脂
 無潤滑運転耐性には優れるが、ドライ運転での限界では上記と同じくステンレス鋼の膨張により超硬合金が割れる。超硬合金厚さを業界標準の3[mm]では全くダメ。スペシャルで15[mm]厚にしても最終的には割れる。樹脂軸受故に耐摩耗性は期待出来ない。超硬合金とステンレス鋼の間では上記同様にガルバニック腐食が発生する。

3.その他
 軸受に炭素、銅合金系メタルを用いた例もあるが、何れも耐摩耗性が問題。本質的にドライ運転等発熱運転では最終的に抱き付きが生じる。
※抱き付き・・・・温度上昇により軸外径>>>軸受内径となり固着する事

 全ての組み合わせで今抱える問題点は、、、

★絶対に最終的には抱き付き症状に到る。
★軸スリーブに超硬合金を用いる限りは絶対に膨張係数差によって割れる。
★硬質材料に頼るために破壊は急激かつ一気に進行する。

 となる。この解決に、大手E社を始め、日本のトップコンストラクターであるM社、H社等々が凌ぎを削って開発を進めているのが今だ。

 この解決には優先順位を付けて回転機械の運転が停止に追い込まれない事にプライオリティーを付ければ、

1.破壊が一気に進行しない構造
2.膨張係数差等の基本論理で破綻しない構造
3.最終的にも抱き付かない構造(温度平衡、膨張係数配置等)

を用いれば良いだけであり、これを満たしたシステムを開発したのが2003年の事。その後の研究期間を経て、2008年に初めて業界の有力企業の製品に採用された。この採用されたシステムは、この夏のゲリラ雨でも都心において機能したという報告は貰ったところ。この採用の記事は日刊工業新聞に採用企業名で発表されたけど、、、『おまえが開発した訳ではないだろう?買って使っているだろうに、、、』

 このシステムは、見れば超簡単なシステムだけど、先行企業の誰もが実践していない構造。

 しかし、このシステムに用いる軸受自体は自社開発した特殊なセラミックス(WC-Mo5Si3C-MoxC)を用いているのが難点。セラミックスというからには大径の軸受では摺動材の分割構造を用いざるを得ないからだ。因みに、このセラミックスは平成9~11年の当時の通産省の『新規産業創造開発費補助金』制度で1億5千万円程の資金補助を受けて特許取得~開発を行った材料で、通常の珪素系セラミックス以上の硬度と、サーメット系材料に迫るセラミックスの2倍以上の曲げ強度、靱性を有する特殊セラミックスなんだが、平成20年の今の目で見ると、既に旧式で軸受部品として見ると欠点が目に付くもの。
 この10年前に開発した軸受と5年前から開発を始めた特殊な複合構造を有する無機材料スリーブで軸受を構築している。硬質無機材料で脆いという本質を繰り返し複合構造によって破壊の進行を無段階に遅らせるのが肝の材料だが、この二つの要素で構成されている。

 そして、2008年9月を迎える前に、上記の10年前に開発したセラミックスを用いた軸受を全く新しい構造に置き換える事が出来た。
 新しいシステムは、比較的柔らかい金属系材料を用いた軸受であるが、部品が一材料で構成されており複合構造ではないのが肝。それでいて、硬質材料以上の耐摩耗性を持つ。勿論、耐食性も確保している。構造は車のエンジンのとある部品にそっくりだ。

 性能を比較すると、無潤滑運転(2[kgf/cm2]×6[m/sec])での使用可能時間は、従来開発品:ステンレス鋼/無機材料複合材/WC系セラミックス分割構造で2.5時間だが、最新開発品:ステンレス鋼/無機材料複合材/特殊材料一体構造で9時間以上である。9時間っていうのは、就業時間での連続時間であり、実質は無限とも言える。
 時間の判断は、軸受中を摺動する軸の回転軌跡の変位量を連続計測し、摩耗による軸受隙間拡大と温度上昇による抱き付きに向けての軸受隙間縮小をモニターしているので、軸変位の変化傾向から見ることが出来る訳だが、従来開発品は2.5時間~4時間で発熱量が放熱量を上回り軸受隙間が消失方向に変化するが、新規開発品は、熱的特性と膨張係数等物性特性の両面から本質的に抱き付きに到らないシステムであり、9時間の連続無潤滑運転を行っても、軸変位は全く変化していない。それ故に、無限に摺動可能では?という状態。
 興味深いのは、そのような高負荷、高周速の無潤滑摺動でも温度が静定しており摺動部材の温度は50℃未満で静定するという特徴。摩擦係数を下げ、実質摺動面積を減らし、発生熱量を極限迄落とし、発生熱を速やかに回収するシステムをシンプルに実現しているためだ。

 これは、従来の販路とは別の販路で展開しようと思う今日この頃である。摺動部品の開発?を15年続けた集大成となっている。さて、どこから適用しようか?

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