ステンレスフレームで、まず妄想
昨晩は、梱包を解いてサッと見ただけだが、一日置いて考える。
その前に、ネットでステンレスフレーム&ロードバイクで検索してみる。結果、出てこない。出てくるのはQ&Aばかり、質問者の多くはステンレスフレームってどうよ?で、回答者はステンレスフレームは脆く?ダメとか、、、、第一印象は、みんな乗った事あるの?って感心したのだが、良く読むと、チョット違うみたい。どっかの物性値とか、聞いた話的な部分が多い様子。
まぁ、材質だけで質問する方も、それだけで解答するのも基本ナンセンス。とある素材が在ったとして、これを完成させる時に、どのような性質を与えてやるか?が重要。つまり、素材を生かした料理法で味は大きく変わってくるのである。
そう、自分の関心はステンレス素材をフレームに利用した人は、その素材を如何に活かしたか?が興味なのだ。その味っていうのは、素材の何かに大きく依存するものならば、それは、素材ならではの特徴となる筈。
そう考えた時に、ステンレスフレームが生み出す結果としての味はどうか?が関心の的で、これから完成車に仕上がるまでは、眺めて感想、見て感想、部品選びで妄想、、、、という楽しい思考の迷路状態となるのだ。
そこで、第一弾、取り敢えず見だだけの段階で、妄想してみた。
このフレーム、非磁性であり光沢から判断するとオーステナイト系、恐らくSUS304材である。フレーム肉厚は端部1mm(ノギス測定)、中央部0.5~0.6mm(超音波測定)のバテッド管である。フレームの接合はラグレスで、溶接ビードが無いもの。特にビードを研磨か切削が出来ないよう部位でもビードが見えないのでロウ付けか?と思えるモノ。ロウの部位は経験上銀ロウに近い見た目。特筆すべきは、パイプ同士、パイプとクラウン、パイプとエンド、パイプとポストクランプといった異材接合部位の接合境界面が目視では見えない程に滑らかに仕上げ加工されている。パイプ外径は標準のクロモリフレーム系の自転車と同じ。
興味深いのは、ブレーキワイヤーアウタートンネル、Rメカワイヤーのアウターカップ、レバー台座、前後エンド部品、フォーククラウンの全てがステンレス製となっている事。そして、全てのパイプが自転車フレームに見合った(標準部品が組み付けれるサイズと絞り等々)形状となっている。つまり、このフレームの生まれた時期には、ステンレス材でフレームを作るための材料の供給体制が在ったということ。
因みに、ステンレスの物性は?っていうと、比重は鉄系が7.8~7.9に対して8.0程度、乗り心地に効いてくるであろうヤング率は、クロモリが200~207[GPa]に対して197~200[GPa]ていうもの。因みにジュラルミンで70~[GPa]、Ti合金で100[GPa]程度、CFRPは100~200[GPa]でモノ次第。
大きく違うのは、降伏強さ、引張強さ、伸びという部分である。これを順に挙げると、SUSの場合は、205[MPa]、520[MPa]、40%という数値に対して、クロモリの場合は833[MPa]、980[MPa]、12%となっている。降伏強さ、引張強さが弱いように見えてもジュラルミンが195[MPa]、355[MPa]、鉄が240[MPa]、450[MPa]、21%である事を考えると、決して弱い材料でも無いし、強度が必要としても肉厚でどうにか為る範囲である。
但し、注意が必要なのは伸びの大きな材料とそうでない材料は応力歪み曲線は違うタイプであり、そこで応力限界の降伏強さとかの数値は永久歪みεの数値が違うので同列には比較できない。クロモリではε=0.2%をだろうけど、SUS304の場合はε=0.1%であり伸びやすい材料故に歪みが小さい場合でも絶対値が大きくなるからと言える扱いが為されているからだ。仮に、ε=0.2%とすれば、みなし応力限界値は更に近づく。まぁ、伸びのある材料では材料の強度評価にはオフセット耐力を用いるのは常識であり、応力限界値で材料の優劣評価を行うのは、本来過ちとも言う。伸びとか応力限界値は、負荷上限に効いてくるモノであり、大事なのは負荷上限を満たした形状にした時の弾性特性である。
ところで、構造体の弾性特性は、構造体のメッシュサイズ、構造体のパイプ外形、パイプ肉厚で計算できる。弾性率が同じなら、外形を増やし、肉厚を増やせば弾性が高まる。
そう、大事なのは、このように強度に併せて設計した時の弾性特性はどう?っていう事。構造体のバネ定数の大元となるのがヤング率。クロモリを基準とした時に、応力限界、ヤング率から弾性を見繕うと、チタンフレームは同じ強度を維持する形状ならばヤング率は半分であり相対弾性は0.5って事になる。
反対にアルミフレームっていうのは疲労が進行するという原則で、変形させない頑丈さで作られる場合が多い。相対的な弾性で言う事も可能だが、弾性材料でなく確実に疲労が進行する類の材料であり、原則として弾性に従って変形するようには作られていないだろう。
クロモリフレームを基準に考えると抽象的かもしれないが、チタンはしなりやすく、アルミは堅いという事である。
余談だが、CFRPはいったい?っていうと、物性的には実は大したこと無いのだ。弾性率は鉄の1/2程度であり、超高級でクロモリと同等というレベルである。CFRPのメリットは?っていうと、軽さと断面形状の自由度であり、実質的にクロモリ以上の構造体弾性を確保し、アルミ程堅くないというところを軽さを保って狙える存在と言える。
弾性という尺度でいうならば、
チタン合金(0.5)<クロモリ(1)<CFRP(設計次第)<<<<アルミ合金(∞)
因みに、今回のステンレスフレームの場合、肉厚は1mmであり1.4倍、そうやって必要強度を確保していると考えられる。そして、弾性率が同じ材料であり、肉厚が1.4倍ということは間違い無く構造体弾性自体は薄肉クロモリを上回っている。つまり、序列的には、薄肉クロモリより高弾性でアルミ合金には到らないというもの。まぁ、冷静に考えれば厚肉クロモリでも同じ様な性能が出せるとも言うが、、、、敢えて言うと伸びが違うけど、それはフレームの特性にどう影響するかが微妙なところ。
最大のメリットは何と言っても耐候性だろうか?錆びないっていうのは屋外使用前提の機材としては大きなメリットである。あとは、靱性、耐衝撃に対して割れない強さっていうのはサスペンション構造を有しない自転車のフレームとしては耐久性の面でメリットは大きい。
言ってみれば、割れない錆びない高弾性材料とでも言おうか?そんな特徴かもしれない。
今回のフレームでは強度を揃えている?結果、重くなるのを極力排除するために、ラグを用いていないのかもしれない。結果、そこそこの軽さに仕上がっているが、その軽さの結果論として、フレーム自体の作られている方向性を伺うと、トップ長C-Cで530mm、シートパイプ長C-Tで520mmであり、小林のマンガンモリブデンパイプ、BSのクロモリパイプのフレームに較べると同じトップ長ながらダイヤモンドはコンパクトとなっており、剛体としては高強度、高弾性方向となっている。シートステー、チェーンステーも一回り太めで、シートステーの結び方は巻きステーのような横留めと違い、集合ステータイプであり、パイプの接合部強度は高めの構造。
つまり、パイプの継ぎ手工作、ダイヤモンドサイズ等々から見ると、全体的に高弾性方向を目指して作られている事が想像できる。構造体としても高弾性方向、そして、材料の肉厚から見てパイプレベルでも高弾性方向である様な印象である。
関心は、自分の持っている他のフレームと違いが感じれる?って所。多分、ハッキリとした違いを断定的に言う事は出来ないだろうし、違いを感じたとしても材料に起因するものでなく、形状に起因するものだろうけど、このような想像をして、その想像という予備知識から実際の違いが感じ取れれば楽しいなぁ!っていうのが期待である。
面白いのは、見た目クロモリホリゾンタルのような細めのフレームだが、実際は相当に弾くフレームっぽいというミスマッチ感。見た目の繊細な感じをコンポでどう表現するか?という部分。何をどうする?っていうのは決めていないけど、質量感の薄い繊細なデザインのコンポで仕上げるのが自分の美的センス?かも。タダ言えるのは、広い面が強調されるデザインは今一似合わないかな?って印象。カーボン部品も目立つようには使いたくない。他には、シマノのホローテックデザインなんかは似合わない印象。更に言えば、独特の金属光沢を活かすという意味では、マテリアル的には、アルミ系、鉄系が理想、それで居てなるべく最新ということで、、、、、、カンパのアテネ11S辺りがリーズナブルで悪くない印象だ。
後は、余談だけど、ステンレスポリッシュっていうのは独特の光沢である。他の金属のポリッシュっていうのは表面粗度次第であり、擦り傷等で光沢は一気に失われる質のもの。表面の反射が純粋に材料表面の平滑度に依存するようなモノ。これはメッキの類でも言えるもの。
しかし、ステンレスの光沢っていうのは表面粗度というよりも不動態被膜下の金属光沢が透過して鈍くしっかり光る感じ。内部から反射するような深みのある光沢である。だから擦り傷が付いても、傷自体の表面自体が反射するというもので光沢は傷が付いても失われない質のモノ。これがメッキ、他の金属との大きな違いである。
実際、調理器具でアルミ鍋は古くなると曇って反射しないけど、ステンレスの手つき鍋は焦げても、汚れても、凹んでも光沢は失われない。そんな違いだ。この独特な光沢っていうのは、それだけで何だか嬉しくなる。
パッと見ただけで質感が違う。そして細身ながらも弾くようなフレームと言う事。早く乗ってみたい気もする。
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コメント
おはようございます。
そうですね、ネットの知恵袋とか眺めると首を傾げたくなるような質問と解答に溢れてますね。
ステンレスっていうのも、実に幅広く、元々合金故に用途に併せて色んなタイプがありますが、中には磁石と付くからニセモノ!って言うバカもいます。
但し、構造体として、通常使用下における機械性質的にSUS304のメリットというのは何かな?と考えると、なかなか思い付きませんね。
衝突時の折損しにくさとか、耐候性、耐久性に優れるのは理解できますが、構造体としてのメリットは果たして何でしょう?
投稿: 壱源 | 2009年7月30日 (木) 10時01分
Q&Aでステンレスフレームが脆い、なんて書いてるひとは乗ったことがあるどころか見たことも無い、下手すると物性の数値すら知らないのでは?と思います。
ステンレス包丁は切れない、とネットでよく目にしますが、切れる切れないは刃先の形状に左右されるので、1日中使ってるプロでなければ十分だと思います。
投稿: yama | 2009年7月30日 (木) 09時04分