先行待機ポンプの勘所
先行待機ポンプというワードで調べる人が多いので一つ、小ネタを。
先行待機ポンプって大袈裟な名前が付いていて何が普通のポンプと違うか?っていうと、流体機械的には何の違いもない。タダの縦型斜流ポンプだ。駆動器が在って長軸の先にインペラーがある。そして長い駆動軸を何点かで保持しているだけのものである。
にも関わらず、何で、そんな名称がついているか?っていうと、、、羽根車式ポンプの全ては、使用環境の大前提に送り出す液体中に羽根車が使っているというのが鉄則なのだ。つまり、羽根車の下側から水を吸い込んで上側に送り出す時、羽根車を駆動する軸を支える軸受は絶対に液体に曝されているのである。そして、この送り出す液体を軸受の潤滑と冷却にも利用しているのである。つまり、液体があるから軸が摺動しても大丈夫なのだ。この液体が清浄な水や油ならば軸受に配慮は殆ど不要である。その潤滑機構は、純粋にトライボロジーの世界の知識で片づくモノである。
この手の軸と軸受の隙間に液体を存在させて機能させる滑り軸受の場合、重要なのは軸受隙間だけど、軸受隙間は使用環境に合わせて厳密に設定出来るし、摩耗限界を定義する事も可能だ。まぁ、この業界では、この隙間計算を数値的に厳密に行える企業ばかりか?というと、現実は違う。えぃ!やぁ!的に軸径の1/500~1/1000という機械ハンドブックの大雑把な方法で事を済ませる企業が殆どなのだが、、、、実際、荷重、周速、合成表面粗さ、液体粘度から、定義した隙間と、隙間で生まれる水膜厚さの関係が求まり、隙間と水膜厚さの変化率から初期隙間、摩耗限度隙間を決めるモノなのだ。
それでも、この滑り軸受の計算は、上述のような流体潤滑の論理、トライボロジーの論理を駆使して行っているのが実状。
しかし、このシステムの先行待機たる所以は、摺動部位に潤滑を司る液体が存在しない点にある。つまり、流体潤滑でも混合潤滑でもない世界、固体同士の接触の世界の話なのだ。この固体接触摺動に耐える摺動システムが確立出来るかどうか?が、先行待機ポンプが出来るかどうかの勘所なのだ。つまり、ポンプがポンプの役割を発揮する前段の液体無い状態でポンプを回す事が出来るかどうか?つまり、液体無しで摺動が可能かどうか?が、このシステムの勘所なのだ。
つまり、摺動システムの設計において、流体ポンプメーカーが行いがちな流体潤滑の論理に捕らわれた摺動システムのデザインでは、固体接触摺動を賄う事は非常に難しいのである。出発点、視点を変えた摺動システムのデザインを発案する事こそが、このポンプの勘所と言えるのである。既存の概念、既存の材料の用法に捕らわれていたら、良い解には行き着かないのではないだろうか?
少なくとも、自分の発案したシステムは、出発点として流体潤滑の論理には捕らわれていないし、流体潤滑の世界での機能から見れば従来システムに対してメリットは大きく無いものだ。しかし、発想の原点は固体接触故に、その世界では圧倒的なのである。
最近は、これらの潤滑の論理を眺めていると、仮定の部分が実際と大きく違う部分がある事に気が付いた。そして、多くの人が見落とす部分が性能に宿命的な制約を与えている事にも気が付いた。そこで、固体接触システムでありながら流体潤滑性能を著しく高める物理的な工夫も開発して、今イイ具合に試験が進んでいるところだ。
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コメント
そうですね、東京都の地下にも数多くの雨水排水ポンプが設置されています。そのポンプは昔から存在していますが、これが昨今のゲリラ豪雨の際にも降雨前から起動できるようなシステムに随時置き換わっているのが、ここ数年のトレンドです。
この新システムに私の開発した材料を装備したポンプの導入を推進しているところです。
この業界のトップコンテンダーはE製作所で、これに対向する企業の製品に新素材軸受を提供しています。
投稿: 壱源 | 2010年1月28日 (木) 00時12分
巨大なポンプですね。壊れにくいのは素晴らしいです。
昔、新宿、JR大ガードの下で信号待ちしていた時、集中豪雨に逢って、冠水、バイクごと水没しそうになりました。前が詰まっていたので、一緒に信号待ちしていた四輪車はことごとく水没。ドライバー達は逃げられ無事。電動ウィンドウのクルマは窓も開かず、ドアも開かなくなって苦労されていました。全てのクルマが撤去されたのは一週間ほど経っていました。後で『排水ポンプの故障で』とニュースになっていました。
投稿: クマ | 2010年1月27日 (水) 22時32分
そうですね、大きな灯油用ポンプみたいなモノですね。モーターが最上部、羽根車が最下部、途中の軸をメタルで支える。そういう構造です。
水無し運転と、水が入る時の運転ですが、水が入る時は、雨水ですから砂混じりとなります。つまり、水無しに耐えて、泥水にも耐えるのが難しいところです。
因みに、都市の雨水排水ですからポンプの送る水の量は2000~30000[m3/hour]が多いです。軸の太さは直径130mm~300mmくらいが多いですね。
投稿: 壱源 | 2010年1月24日 (日) 17時00分
難しい事は解りませんが、大きな灯油用ポンプをイメージして読みました。成る程、短時間、低負荷(灯油用ポンプ)なら軸受けの磨耗に気を使う事は無さそうですが、駆動軸が長くなるほど、軸が振動しそうで、途中に軸受けが必要ですね。液体が無い時にはオイルレスメタルくらいしか思いつきませんが、もっと良い方法を見つけられたのですね。努力の賜物ですね。
投稿: クマ | 2010年1月24日 (日) 15時00分