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2010年11月29日 (月)

工業と工芸

 先日のクロモリフレームネタの追記だけど、この度やってきたフジOSロードフレームを見ていると、ホント、ほれぼれする。

 フロントエンド、、、、勿論、鍛造エンドである。鍛造エンドがフォークブレードに差し込んであるけど、差し込む時にいはフォークブレードに切り掛きが合ったり、フォークの開口端とエンドを差し込んだ後の隙間っていうのは、やはり処理が必要。その処理部の対応の仕方一つみても違いが晃かである。安いフレームはフォークを潰してエンドと共用したりしているけど、それが可能なのは、フォークブレードのパイプ肉厚が厚く、柔らかいから出来る芸当。フォークの開口端を潰しやプレスで処理する事自体で、パイプのグレードが類推出来るのだ。差し込み部のフォーク端にスリット加工してロー付け面積を稼ぐ処置が施してあったり、エンドを差し込んだ後の開口端隙間に蓋板を充ててロー付けで閉じてあったりすると、それは非常に手間の掛かる仕事。これは手仕事であり、手仕事で手間を掛けるというのは、手間を掛けるに見合った品物とも言えるのだ。これこそ、工芸の神髄だったりする。

 次はフォークが立ち上がってクラウンと接続する。ではクラウンを見てみよう。クラウンというと、ロストワックス鋳物のクラウン、プレス型のクラウンがある。このクラウンというのは左右のフォークブレードを支えるモノであり精度と強度が必要。何よりも頑丈であるのが大事である。この部分でしなる必要は無いのだ。パイプを接合すると言う事で接合部分の強度には特に留意しなけえればならない。こういった部材に要求されるのは、、、、加工時に発生する残留応力を如何に抑えるか?如何に接合強度品質が確保出来るか?接合後の応力を受ける場合の応力集中を避ける事が出来るか?が鍵だ。
 つまり、鋭角的な形状変化もナンセンス。高熱での処理も今一、材料を塑性変形で加工するのも今一なのだ。そう考えると、ロストワックスのような精密鋳造で作られたモノがベスト。形状に要求される部位別の適正肉厚、精度の確保という面で、これを上回るモノは無い。接合後の応力集中を最小に使用とすれば、接合箇所の形状も滑らかにしなけれならないし、パイプとの接合強度を確保するには、接合距離(面積)も確保しないといけない。
 となると、クラウンとしてはロストワックスクラウンが最高峰だろう。実際、ロスト肩を見ると、ショルダー部は必要最小限の肉厚となっているし、裏から見ると必要強度に見合った複雑なリブ形状となっているのが判る。
 プレスクラウンの場合、プレス成形するためにどうしても肉厚は多め。深絞り加工故に軟質材を使うし、必然的に応力が残留する。そこにパイプを差し込む訳で、接合後の形状を見れば肉厚変動は急激となるのは仕方ない構造でもある。実際、小林やフジのフレームとBSのフレームを見比べれば、ここでも相当に違いを感じる。一級品と二級品の差が見て取れる。

 ラグの部分も然りだ。ラグというとパイプの接合部故に、フォーククラウンと同じ考え。ラグレスでパイプ同士をロー付けするもの、溶接付けするものもある。これらの方法も悪くないけど、接合強度に直結する接合距離(面積)は突き合わせ断面積だ。これにロー付けなり、溶接なりで面積を確保したとしても、距離を増やす程、処理時間が増えて、素材に掛かる熱負荷、構造体に溜まる残留応力が増大し、その品質、均質度を確保するのは難しい。となると、隙間に一気にロー材が流れるラグ付けのメリットが注目を浴びる。そして、当然、肝となるラグ自体で違いが見え隠れする。ラグの違いというと、上述のクラウンの違いと同じ事。プレスラグか?ロストラグか?ということになる。プレスラグとロストラグの一番の見た目状の違いは肉厚。端部のシャープさというところ。クラウンと同じく、強度、精度、応力残留を考えると、当然、ロストラグがベスト。
(※ロストワックス製法:鋳造方法の一つ。目的形状と同形状の焼失模型を作る。この模型の表面をセラミックスとか砂で固める。固めた後に模型を焼失させる。因みに模型はローとかワックスで出来ている。すると、目的形状部が空洞となった殻が出来る。これに溶かした金属を流し込んで目的形状を作る。当然、出来たモノに残留応力は生じない。形状精度は、模型精度次第だけど、模型はワックスのような加工しやすいモノだから高精度で作る事が出来る。こういう製法で一般に何作っている?っていうと、車のターボチャージャーとか、ジェットエンジンのタービンの羽根とか、そう言うモノ。現時点、現代において複雑形状を作る上で最も優れた製造技術。最近(1990年以降)は、精度の高いワックス模型をコンピュータで自動作成する技術が普及している。昔ながらの鋳造では、こんな精度は得られない。)

 クロモリ系フレームの良さは、素材がウータラではないのだ。このような小さな造作に職人の手間が見える事なのだ。手間を掛ける価値があるかないか?これが、フレームに込められたメッセージなのだ。クロモリだから良い!っていうのは、馬鹿な論理である。
 クロモリの場合、手間やメッセージが見えるから、良いモノがどれ?ってことが判るのが良いのである。

 逆に、アルミとかカーボンっていうのは、手間やメッセージが見えにくいのである。そして、その手間というのは、人の手でなく、時代に応じた処理的な目新しさに置き換わっているのである。目新しいということは、実は評価できていないのである。瞬間的なレース実績が合っても、それが普遍的な価値として昇華していないのが、所謂先端技術ということなのである。実際、過去の先端技術と言われるモノの多くが、ゴミとして衰退しているのも現実だ。それが良いか?悪いか?そんなのは、簡単に判断出来るモノではないのである。

 今の時代、カーボン=高性能って言ってるけど、確かにカーボン糸は高性能だ。しかし、カーボンという伸縮ゼロの材料でシートを作り、それを複雑形状で成型すると、どうしても強度を受ける部分と怠ける部分が出る。それを樹脂等で接合させるけど、カーボン繊維密度を増やす程に繊維間に浸透させる樹脂をコントロールするのも難儀なのだ。無限に近い繊維を均質に樹脂接合する事の難しさ。無限の伸びない繊維に負荷を等しく分担させるなんて基本不可能なのだ。それを解消するための手法は未だ発展途上なのが現実なのだ。カーボン系材料の加工手法は現時点においては確立されていないのが本当のところだ。

 最近では、クロモリでもハイドロフォーミングでラグ一体成型、、、、なんて理屈もあるけど、結局は液圧成型プレスでパイプ端をラグ的に加工しているだけ。ラグ的に加工するというのは、加工時に素材が送られても大丈夫なだけの肉厚であったり加工に見合った素材の強度制限が生まれるもの。これは、構造体の望む仕様とは当然異なっている。そもそも、プレス成形となんら変わらないので、加工箇所には加工に伴う変成、変質、残留応力の蓄積というネガも確実に存在する。勿論、カタログにデメリットなんて謳っていないのだ。まぁ、日本人の多くは、カタログを飾る訳のわからないカタログ用語、テクニカルタームを見ると盲目的に凄い!って思う習性が有るようだが、、、、。

 そういう意味で、伝統的に評価尺度が確立した鋼材っていうのは実に奥深く、そして理解しやすい優れたモノなのである。

 技(業)が普遍性を持つ、伝統を持つ、評価される、、、、それが芸術(芸)になるのだ。工業と工芸、、、意味合いが違うかも知れないが、クロモリフレームというのは一種工芸的な世界観が広がっている。

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