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2010年12月 2日 (木)

片倉シルクが好きな訳

 最近、『片倉』、『シルク』での検索が特に多い。そこで、1ページ割いて書いてみる。

 で、このモデル、何よりもフレームがスペシャル。これに尽きる。

 海野工業のD2×D2っていうクロモリダブルバテッドチューブを使う。これを低温溶接と名打ったロウ(ユーテクロッド16FC)付けで行う。ロウ付けをユーテクテック溶接と命名した理由、、、、それは、非常に低温のロウ付けでありながら、接合部分の強度が母材強度を上回り、強度的には溶接を上回る(850MPa級)事から。つまり、溶接のような母材を溶融させるような高温に晒さなくても高強度を確保出来るという事を売りにしている。
 技術的には母材鋼管とロウ材が共晶合金を作り、共晶合金に物性が母材を上回る系となるロー材を使うという事。難点は、ロウ材の流動性が悪く作業性が悪いこと。これは銀ロウの一種で当時特許化された技術。

http://www.freepatentsonline.com/2279284.pdf

である。

 母材の温度を低いまま加工出来るメリット、、、、現代、パナソニックのクロモリフレームの通常の低温銀ロウ接合でも650℃程、シルクのユーテクテック法では714℃と少し温度が高いけど、その代わりに溶接以上の接合部強度を実現出来るのが利点。一般に溶接したら1000[℃]以上の高温に曝されるけど、その辺が違う。溶接は必要箇所を溶かして引っ付ける。ロウ付けは接合部にフラックスを乗せて溶かしつつ母材を必要温度に加熱すれば隙間に毛細管を流れるが如くロウ材が一気に浸透して行き渡る。処理時間は処理面積の割りに短時間で出来るのもメリット(ロウ付けで真空配管、圧力配管を作る作業は大方3年以上は行った事があるのでよく判る。)
 そんな訳で、この工法のメリットを厳選して紹介すると、

・素材の変成、変質、強度低下を起こさせない。
・加工時に材料に残る残留応力を減らす事が出来る。

 現代のTIG溶接なんかとは全く違う。あくまでもロウ付けである。一般にロウ付けの場合、強度が母材強度を上回る事は難しい。そこで、接合面積を確保するためにラグを用いたりする。
 しかし、ユーテクテック法ならば強度が確保(素材の強度以上で!)できるからラグを必要としない。

 シルクを特徴付けるもの。それは、国産の海野のパイプを強度を失わないロウ付けによってラグレスでフレームを作る事が出来る。
 ラグ方式の場合、ジオメトリーの自由度を確保するために、実は、差し込み部には遊びのような許容が存在する。実際には、ラグ内径とパイプ外径の間の隙間は一様ではない。ジオメトリーに合わせて隙間も色々なのだ。そこにロウ剤を流し込んで接合する訳だけど、この寸法許容に伴うロウ付け部合金層の状態が強度低下の一つの要因。更に、ラグの受け付ける角度の範囲でしかフレームが成せないという特徴も、ジオメトリー自由度を束縛する一つの要因となる。
 実際に、シルク全盛の時代、ラグは輸入品、、、つまり、ラグのパイプの接合角度は欧米人体型に合わせた角度が基本だった。日本人に合った国産ラグが無かったのが原因。ジオメトリー的に舶来ラグを使うと何かと制約があったのだ。

 例えば、シルクの方法以外で、この外人体型向けのラグを使って小さな日本人向けのフレームを作るとしよう、、、、そのためには、ラグのパイプ差し込み角は非常に大きな制約となる。外人用のフレームを日本人に乗せるには、、、、、シートの高さは或る程度ポストの差し込みで調節できるけど、リーチと縮めるのは簡単ではない。大きなフレームを小さくする。シートチューブとトップチューブを両方短くしたらどうなるか、、、、ヘッドパイプ下側のラグ、ハンガー部のラグの角度が大きく変わる。この辺に無理が来る。この問題を解決する方法は?っていうと、、、、外人向けのフレームをベースにヘッドパイプをシートチューブに平行移動して近付ける方法がある。前輪がアンダーチューブに当たらない範囲なら近付ける事が出来るのだ。
 そう、シートパイプ長に対してトップ長の短いフレームなら、なんとか外国産のラグでもコンパクトなフレームが作る事が出来る。

 そういう見方で、当時のフレームを色々と眺めてみると、、、、トップ長の割りにシート長が長いフレームっていうのは少なくない。乗車状態での難点というと、スタンドオーバーハイトが高いという問題はあるけど、乗ってしまえば、取り敢えず乗れる、、、、そういう対応も可能だったりする。実際、我が家の小林ロードフレームがそういう感じだ。

 しかし、ラグレスで突き合わせでロウ付けできるなら、パイプ接部は常に一定。それもジオメトリーの自由度を確保したままな、、、、そう、高強度で高信頼性のフレームが形として得られる点が最大のメリット。

 更に、フォーククラウンではシルクでは二枚肩という独特な製法で強度とジオメトリーの両立を測っていた。厚手の二枚の鉄板にコラムをフォークを差し込んで製作する。これは他に類を見ない形だ。

 なお、国産でも後に日本人体型に合わせたラグが作られるようになったけど、ラグ一つでも残留応力を持たない鋳物のラグ、成形パーツを溶接で組み合わせて仕上げた伝統的なラグ、低コストで大量生産可能なプレス成形して作るプレスラグがある。廉価なプレスラグの場合、素材をプレス成形して継ぎ手を作る訳だけど、プレス成形できる素材(プレス成形性が材料選定の一要素となる。プレスの成型性と構造体としての強度は離反する要素)を利用したり、プレス成形自体の様々な制約(強度確保のためにボリュームが必要とか、、)があったりする。
 そういう訳で、エンドのみならず、ラグやフォーククラウンはやっぱり鋳物が良い。しかし、鋳物でも最高峰のロストワックス製法による方法は非常に高コスト、、、、実用には色んな問題がある。そもそも、フレームビルダーやメーカー単体でラグやクラウンは作るのが難しかった。

 片倉シルクのラグレスフレームを見ると、パイプは入手出来ても、フレームとして重要なジオメトリーを高い信頼性のパイプワークで作るためのラグが入手出来ない現状を打破するために様々な工夫を凝らしているのが判る。そう、当時の作り手の気合いを感じるのは自分だけかもしれないが、そういう拘りの作り方は、オリジナリティーに溢れている。

 時代の変遷、使える素材の増加によってシルクもラグ組フレームに移っていったけど、シルクのシルクらしさ、、、、気合いや気持ちが感じる事が出来るのが初期のR1、R2である。ラグレスフレーム+二枚肩クラウン、、、、これは、自分から見ると宝のように感じる。なお、後年に登場したラグ組のフレームも悪くないだろうけど、他メーカーのモノに比較した時の訴求力が見えにくくなっている。後年の中での選択というと、パイプブランドであったり、工作の丁寧さであったり、そういう部分で判断する事が多い。フジのレイノルズ531のフレームは世代的にシルクよりも後年の作品であるが、同時期のシルクR2よりもレイノルズ531仕様のフジOSの方が好みだ。この時代になるとラグレスシルクの時代よりも物作りに必要な手法の選択肢が広がっており、技法的にも洗練されている。その分、造形的な美しさを感じるが、シルクのR1、R2のフレームは、どちらかというと無骨で力強さというか、そういう気合いを感じる。

 並べておくと、この対比、コントラストがイイ。

 シルクのフレーム、、、、これと、最新最強のカーボンフレームを較べても、自分が選ぶのはシルクのフレームだろうな。
 性能的にカーボンフレームが上回るのは理解出来るけど、1964年のオリンピックではシルクが使われていた。1964年の競技者が乗って問題無いというのも事実。自分のレベルを考えると、性能の差なんて望める立場に無いのも事実。言い換えれば、シルクのフレームの性能だって贅沢で勿体ない筈。だから、、、、性能云々に拘りは無い。
 更に、性能に一番重要なのは、強度でも軽さでもない、、、、そう、体型に合っているか?という思いもある。現代のCFRPフレーム、、、、殆ど、台湾かどっかで欧米向けの型を使って作ってる。それよりも、、、、、日本人向けなシルクのような国産マスプロ車の方が魅力的とも考えている。

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