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2011年1月20日 (木)

摺動試験システム

 最近、開発品初号機採用企業さん、コンタクトを頂いた業界企業さん、この業界のトップメーカーさんからのアクセスがとても多い。

 試験結果に関心があるようだけど、試験結果を出す試験装置って、どんな構造?が判らないと見えないだろう。実際、装置に関する問い合わせも少なくない。
 ということで、この試験装置もオリジナルで守秘義務に該当しないので、文面で紹介してみる。試験の意図が判れば、文面だけで形はイメージ出来るはずだから、敢えて文面だけ。

 装置は縦型で、上部に駆動電動機、その下にトルク検出器、その下が負荷発生機構を有する試験機本体がある。その本体の回転軸下端に試験対象となるベアリングを設置する。本体中央部には円盤が設置してあり、円盤には偏芯荷重を発生させるアンバランスウエイトを設置できる構造だ。アンバランスウエイトは設置位置とウエイト重量を選ぶ事で必要に応じた偏芯荷重を発生できるようになっている。

 基本構造としては、発生させた偏芯荷重をテコの原理で分配した下端軸受で支える摺動荷重、回転数、トルクから数値を元に、軸受系の性能評価を行おうとするものである。
 勿論、それだけでは実使用環境の再現と評価には不十分であり、下端の供試軸受の設置剛性を可変調整出来る油圧デバイスを装備したりもしている。この供試軸受は一方向から油圧で保持しており、供試軸受の両端にロードセルを設置してある。このロードセルの指示値の差を摺動荷重の実計測値として扱っている。この指示値の差を独立して取り出す事は出来ないので、軸受両端のロードセルの出力をA/D変換ボードでPCに取り込み、PC内で計測数値の差を実荷重として収集している。
 なお、摺動荷重の与え方としては、前述の偏芯力のみならず、回転軸を一方向に傾ける事で片当たり状態を作り出し、定方向の偏荷重も与える事が出来る。他には振動の発生源を軸系以外から作り出せるように、軸受自体を振動の発生源として、様々な周波数の振動や大きさも可変して与える事が出来るような構造も取り入れている。これは、摺動荷重の周波数を色々と再現するための機構だ。
 このような荷重発生システムによって、持続可能な最大荷重として600kgfの荷重を作用できるようにしてある。瞬間的には2000kgf以上の荷重を瞬時開放して大きな加速度を与える事(水撃の再現)も可能である。

 このような荷重運転で運転状態の評価、計測は、上述のロードセル、トルクセンサーの他に、回転軸の偏芯軌跡をギャップセンサーで連続的に計測し、供試軸受自体の振動加速度、変位等も同時に計測する。勿論、各部の温度も計測できる構造となっているし、摺動環境を様々に変化させるために、落水バルブ、摺動部へのスラリー強制圧送システムも装備している。

 これらの計測値は生データの他に、摩擦係数、軸変位の変化量、比摩耗量も同時に演算し表示できる計測システムで管理しており、データの処理も軸回転で2000rpm以上の回転数でも軸軌跡、軸の一回転毎のトルク、変位、荷重の瞬時値、トレンドも全て保存、表示できるシステムを組んでいる。
 なお、システムは自前であり、購入品ではない。
 性能における数値の信憑性は、自分が企画、設計、製作した計装システムの内、勤務中の会社内で稼働している性能試験システムとは全く異なっている。それは、なによりも精度、正確さを重視しており、都合によって数値の修正、改竄は一切行う事が出来ない構造であり、何よりも計測値の信憑性を最重視している。なお、運転データの保管アルゴリズム等を見直し、瞬時値データを取り入れながらも連続運転で100時間以上の計測も可能となっており、理論的には無限にデータ計測を行うことも可能である。

 勿論、非常に多くの計測が可能でありながら、装置からの供試軸受の脱着等は、クレーン、玉掛け等は一切不要で油圧によって一人で簡単に行える構造で、開放検査だけなら3分も掛からない。更に、分解、組み立てで装置の起動条件を完全に揃えるためのゼロ点出しの方法も考慮してあり、取り扱いがシビアで設置条件を揃える事が難しく実験の再現性が困難なモノとは違う。

 自画自賛ではないけど、計測システム、計装システムは、関連企業や官庁、研究機関に存在する同種のシステムと較べても最高の部類と思う。因みに、見学は何時でもOKで、必要ならパッケージとしての製作を受ける事もやぶさかではないのだ。装置自体の製作は10年前。今なら更に良いモノが出来るだろうけど、コスト的に厳しいので、今暫くはこれで行く。

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