LPCDL×製品プロト無注水軸受の摺動試験開始!
先週の予告通り、月曜日の開発コードLPCDLスリーブと、摺動面処理を製品状態として仕上げた無注水軸受の摺動試験を行っている。摺動面は、軸スリーブの摺動面物性に対して最適化を図ったモノであり、耐摩耗性、摩擦係数等を高めた材料である。基本はベース材料を改質(物理的、化学的の両面で)したものである。硬度、面粗度が大きく異なるが、実は、それ以上に凝着リスクを限りなく下げた構造である。凝着という反応が起こるには、そうなりやすい系が存在するからであり、凝着を生じる系をその部分から取り除く改質を行うというのが今回の処理の目玉である。勿論、前回試験は、それが失われても大丈夫ということを実証しており、今回の処理が機能保持に必須とは限らないが、今回の処理によって、旧来の流体潤滑軸受の流体潤滑域における摺動より安定して低摩擦な境界潤滑状態を提供出来るレベルを目標としており、そうすることによって、使用過程における軸受の寸法変化を考慮した設計的な制限を大幅に解除できるというメリットも狙っている。特に、接触部をミクロ的に見た時には、先週の試験とは異なるもの。この摺動面がLPCDLを構成する材料と無注水摺動において、どのような挙動を示すか?が大きな関心どころである。つまり、正常運転下における摩擦係数(駆動トルク)の違い、消耗運転時における凝着等の挙動の発生有無、劣化速度等の観察が目的である。
基本的な運転は前回同様。運転条件は110[kgf]の荷重(0.2[MPa])×6[m/sec]で二時間の無水運転である。運転は、寸法計測を行った後に無水運転を2時間行う。この状態では装置の温度等も変化するので、2時間の運転後は収集データのみ保管して終了。そして、翌日、試験装置が試験前の温度状態に復帰したのを確認して再起動し短時間の運転データを収集する。
この二時間ドライ運転実施直後のデータ、温度条件を復帰させた後のデータを収集した後に開放検査を行うパターン。
二時間のドライ運転による発熱で温度変化による装置の特性の変化分を見極めるための処置である。ドライ運転では、温度変化による寸法変化と摩耗による寸法変化があるために、二時間のドライ運転直後の数値が何に起因しているか?が判りにくいので、少しでも情報を確保するための処置だ。
今回も軸荷重はアンバランスウエイトを用いるが、アンバランスウエイトの設置位置は前回の対面位置に変更する。これによって軸の歳差回転時における回転軌跡最外径のスリーブ位置(軸受との接触位置)を前回位置からずらしてやるのが目的。こうする事で、無注水摺動の摺動負荷を受ける軸スリーブ位置はバージン状態を保つ事が出来るからだ。
取り敢えず、速報値としては、
##############################
1.供試材料
・滑り軸受:完全ドライ対応のカットレスジャケットベアリングの製品プロト
内径100mm、摺動長55mm
・スリーブ:C/Cコンポジットマトリックスの改質材料、開発コードは、LPCDL
2.摺動条件
・摺動環境:完全ドライ×2[hours]
・ラジアル負荷:0.20[MPa]×6[m/sec]
0.85kgのウエイトを偏芯半径130mmで1200rpm
3.結果
・摺動トルク:1.85[N・m]→1.35[N・m](1[hours])→1.35[N・m](2[hours])
・軸変位(隙間+振動):570[μm]→600[μm](1[hours])→630[μm](2[hours])
##############################
今回の製品プロトの無注水軸受は摺動面の硬度は、ベース材の5~6倍の非常に高硬度の材料。ただ、それでも前世代の特殊セラミックスの分割配置型軸受の摺動面に較べると20%落ちである。勿論、一般的なスラリー軸受として考える時に要求される摺動面硬度は軽く実現している。しかし、摺動面硬度については、実のところを言うと、それ程重視していない。
過去のエンジニアの多くは、耐土砂摩耗の考え方に土砂成分よりも高硬度で機械的耐えるという考え方で設計を行っていたが、今回の無注水軸受の耐摩耗性確保は、そういう理念は全く使っていない。敢えて言うと、、、、、小学校の理科の授業、中学の理科第一分野の考え方。っていうのは、摩耗の原因対策に対する対策で大雑把な方法が従来法だけど、今回は、摩耗量に影響するパラメータは何か?を実験的に見つけだし、論理的に説明出来る説を作る事を先に始めたから、新しい耐摩耗性確保のメカニズムが出来たのである。何が摩耗を支配するか?これを知れば、従来の発想の盲点が出てくる。そういうもんなのだ。
今回の材料処理も一般では使わない処理だけど、一般の知識で使えないとされる処理が使えないという判断に到る因子を明らかにする事で、思いも付かない使い方が出来るというのが今回のプロト軸受の処理の特殊性だったりする。これにしても、処理が使えないとされる時、その判断の元が何処にあるか?を考えれば、実は簡単に判るものなんだけど、なかなか気付かないし、実は、全く異業種の類似作業では常識過ぎて話題にも上らないだけだったりするのである。
こういうのが勘所の無注水軸受である。
さて、試験の進行に合わせて記録中の記事だけど、運転開始状態からトルクが滑らかに降下し、30分時点で1.35[N・m]で落ち着いている。軸歳差変位は殆ど不変で微妙な増減さえ計測出来ない状態。非常に安定した無注水摺動である。
従来のベース材の場合、軸受の表面硬度はHv=250程度、今回のプロトの表面硬度はHv=1500以上、LPCDLの摺動部硬度はHv=1500~2500という構成だが、表面硬度、表面面粗度が大きく違うが、微視的な接触部の面状態が殆ど変化していないかのような計測数値の安定度である。
運転経過を見ながら、、、、今回のシステムは製作して始めてのトライだけど、過去の軸受システムの摺動試験では想像出来ないレベルの試験結果を叩き出している。H社のエンジニアにも是非、再度来広して見て貰いたいレベルだ。勿論、開発の問題提起となる状況を見せてくれたT社に対しても然りである。摩擦振動の要因、挙動の傾向、、、そんな物は100%解決している。それ程までの連続計測数値の安定度である。こんな安定度を持つ無注水摺動は自分としては見た事がない。浮かれすぎかもしれないが、完璧である。
良く判らないけど、こんなモンをリリースしたら、実績のある特殊セラミックスを分割配置して製作した無注水軸受の前モデルは全ての点で劣るので、アッという間に駆逐されかねない気もする。
前回のベース軸受×LPCDLのデータの比較する。
##############################
★.ベース×LPCDL(Hv=3000~5000、μ=0.1)
・摺動トルク:1.6[N・m]→1.2[N・m](2[hours])→1.55[N・m](24[hours])
・軸変位(隙間+振動):760[μm]→850[μm](2[hours])→790[μm](24[hours])
・温度復帰前歳差増分:760-850=110[μm]
・温度復帰後歳差増分:790-760= 30[μm]
・温度変化分寸法変化:110- 30= 80[μm]
★.プロト×LPCDL(Hv=3000~5000、μ=0.1)
・摺動トルク:1.85[N・m]→1.35[N・m](2[hours])
・軸変位(隙間+振動):570[μm]→630[μm](2[hours])
・温度復帰前歳差増分:630-570=60[μm]
##############################
今回のトルク値の差は、初期軸受寸法の違いによる隙間数値の違いの影響が大きい。軸受系温度は共に上昇しており、変位増分に含まれる温度変化分を差し引いて考えると、今回の軸受系は殆ど摩耗していない可能性がある。前回の系では110[μm]の寸法変化があったが翌日の温度環境復帰後では30[μm]となっており、温度変化によって80[μm]程の影響があった事が伺えるからだ。今回の試験では、最終的な数値以外に数値の安定性が目覚ましい物があるのが驚きである。
明日以降のLPCBL、LPCSP、LPCGL等々の試験が凄く楽しみである。2/2のT社来広のタイミングでは、LPCBLの解放とデモンストレーション日になるけど、バージン軸受の試験結果から判断すると、最高レベルの連続性能計測がデモンストレーションできるだろう。
| 固定リンク
コメント