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2011年8月20日 (土)

新型摺動材の処理表面について

 メール問い合わせに対して、、、情報を必要としている人は一社でない。基本、公開するのは同じ情報を同時に、、、ということで。H社からの問い合わせメールに対する解答として記事を公開。

 最新の無注水摺動システムは、極めてオーソドックスながら通常では有り得ない性質の軟質材を耐摩耗摺動材固定側に用いた軸受と、やはり通常のトライボロジーの理屈では選択する筈のない摺動面性状を有する脆性材を回転側摺動材に用いた軸スリーブから構成されている。

 基本、耐摩耗性の部分は固定側に、無注水摺動特性の部分は回転側に大きな機能依存をしている。

 そこで、回転側摺動材だが、これは脆性材料で本来なら使えないような材料を、小さな単位に分割したモノを多量に集積して作り上げた材料。単位材料自体は非常に脆いけど、集積材料としては破壊単位が細かくなっている分、単体材料に較べると破壊耐性は非常に高いのが特徴である。

 基本、材料物性としては、集積材料の物性に従うのだが、摺動に対する性能という面では通常の材料物性のみでは推し量れない部分がある。通常の単体材料では単一の物性値で摩擦係数、耐摩耗性を類推できるが、集積材の場合、単一材と同じ評価を得る事が出来る物性値は提供出来ない。
 これを評価するには、例えば、摩耗量評価の場合、通常材料の物性値別の摩耗量を計測し、同じ条件で負荷を与えた時の摩耗量を計測し、通常形状の材料なら、単一物性でどれ程に相当するか?を逆推算する方法しか選べない。

 この方法で摩耗量、摩擦係数を測定すると、今回の集積型軸スリーブ材料の見なし硬度はHv=800~1100程度に留まる。但し、システムの固定側新型軸受を用いる事で摩耗因子であるスラリー分を除去出来るので、通常形状の軸受に換算すると、見なし硬度はHv=1000~1200相当迄高める事が可能である。

 しかし、この見なし硬度は、耐摩耗性で言えばスラリー濃度によって変化する。それは、摺動面に存在するスラリー分の除去機能が有効に働く範囲が限られているからであり、機能が有効に働く範囲以外では見なし硬度が失われるのである。
 そこで、見なし硬度を確保するために何が必要か?ということになるのだが、軸受システムの構造から、摺動面を摩耗させる粒子径が機械構造的に制限されるので、集積材料の表面処理によって機能改善が図る事が出来る。その機能改善は、回転側軸スリーブの集積材料の集積単位毎全てに表面処理を施す方法を用いるが、それは蒸着処理による表面処理によって行っている。表面処理は、集積材料単位の一つずつに個別に行われる。これによって、緻密でない集積材料の単体表面処理が隈無く行われ、結果として部品内部迄行き渡らせる事が出来る。つまり、部品の使用によって表面が摩耗によって失われても部品内部の処理表面が常に摺動面に現れるという優れた特徴を持つ。

 その処理方法は何種類か存在するが、詳しくは、

http://replica2st.cocolog-nifty.com/diet/2011/01/post-5438.html

 に紹介してある。基本は集積材料への蒸着処理である。なお、蒸着層自体は、集積材を構成する単位材料の表面の1[μm](最大で1.2[μm])であり、所謂薄膜である。
 構成単位の材料への表面改質であり、これ自体の処理が複合材料全体のマクロ物性を変化させるものでは無いのは当然だ。ただ、基準材料に生成した薄膜層の硬度は、成膜条件によって予め推定可能であり、その設計値が、上述サイト内の硬度等数値として紹介している。

 この処理を施す事によって部品物性のマクロ値が変化するものではないのだが、事、ドライ摺動における局部接触時における摩擦係数の改善には局部処置が有効に働くものである。新しい生成薄膜の物性、特徴については、下記の通り。従来製品は表層をTiC化したLPCTC、内部にCu系合金を含浸させたLPCBCがあるが、LPCTCはドライ性能を犠牲にして比較的大きな粒子摩耗に耐えるグレード(コーティング皮膜が厚い)で、LPCBCはゴム浮動支持分割セラミックス軸受向けであり、ドライ発熱時における熱分散を高める処置としてCu系合金を利用したもの。最新の軸受システムは非常に熱伝導度の優れた材料であり、軸スリーブ側に金属は不要。それ故に、無機材料+表面処理だけで対応出来る。その対応の選択肢は何通りか行ったが、最終的にはLPCBLというモノをスタンダードに採用する。
 既に、過去の無注水摺動試験では最も低摩擦係数、最も比摩耗量が小さい事を確認している。(何度も言うけど、バルクとしてマクロ物性は処理によって計測数値に差は出ない)

 結論から先にいうと、第一世代の軸受、分割セラミックスをゴム上に配置した軸受に対応する無注水向けスリーブはLPCBC(Cu系合金含浸材料)がスタンダード、金属製一体型のカットレスジャケットベアリングに対応する無注水向けスリー無はLPCBL(構成単位にDLC系皮膜コーティングを施した材料)がスタンダード。目的は、前者は熱分散に金属が不可欠、後者は金属に対する耐凝着性確保を最優先。それだけ。

 なお、マクロ素材の物性値は、窓口企業であるM社から経由して提出させて頂いた資料を参考にされたい。

商品名 膜硬さ 標準膜厚 特徴
LPCDL Hv3,000
~5,000
1±0.2μm 硬さ・耐凝着性がほどよくバランスされた汎用性の高い硬質膜
●摩擦係数:0.1
●耐熱温度:400℃
LPCBL Hv7,000 1±0.2μm 平滑性・離型性に富んだ硬質膜
●摩擦係数:0.1
●耐熱温度:400℃
軟質金属に対する耐凝着性が高い。LPCBCはCu-Bi合金含浸だが、固定側軸受が金属製の場合は、LPCBLがベストの選択。
LPCFL Hv1,500
~2,500
1±0.2μm 高い撥水・離型性をもつフッ素重合膜
撥水によって摺動性悪化は確認。完全ドライでもメリットは確認出来なかった。摩擦係数も大きい。

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