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2015年5月18日 (月)

パラツイン考

シングルでは望めなかった大排気量を実現するには多気筒化が必須。その多気筒化の最初のスタイルが二気筒化である。二気筒化の一番簡単なスタイルが並列二気筒だ。
並列二気筒というと、180度クランク、360度クランク、270度クランクが存在する。
パラツインの場合、クランクピンは2箇所、クランクウェブは4枚、ベアリングは両端2箇所、中央1箇所の合計3箇所だから、クランクに位相を付けても構造的、重量的差異は、それ程大きく生じない。ホンダが先鞭を付けた位相クランクでもVツインの場合は、クランクピンをシリンダー毎に独立させなければならないので、クランクピンが2箇所、クランクウェブが3箇所となり、構造も複雑になり、重量も増加し、偶力の影響も大きくなる。

さて、パラツインの位相は、古くから180度と360度の二系統が存在する。
180度クランクでは、二つのシリンダーの位置関係は対称関係であり、左右でクランクに発生するアンバランスを打ち消し合う構造。それ故に、高回転化が可能となるものの、シリンダーでの爆発感覚は、180°-540°の間隔での不等間隔爆発となり独特な排気音となる。360度クランクでは、二つのシリンダーの位置関係は同じ位置となり、クランクの上下動の負荷を打ち消し合う事はない。しかし、二つのシリンダーの爆発間隔は360°-360°の等間隔爆発となる。
1995年には並列二気筒でも位相クランクが登場する。TRX850が有名だが、爆発間隔が270°-450°間隔の不等間隔爆発となり、トラクションに優れるというのが謳い文句である。なお、サイトによっては慣性トルクが最小になるという事も謳われている。

しかし、、、不等間隔爆発ならば180°クランクでも同様であり、180°クランクと270°クランクの不等間隔爆発で270°クランクの方がトラクションに優れるという評価軸が今一つ不明であり、270°クランクの不等間隔爆発でタイヤの滑り出し云々という話を聞く事もあるが、出力が大きい程、不等間隔度合が大きい程グリップの回復が望める事を考えれば、180°クランクの方がトラクションの回復力に優れると思うのだが、その辺の明確な根拠を探しても見つからない。
慣性トルク最小という文言についても然りである。今一つ、慣性トルクという意味合いが見えづらい。慣性トルクが最小にすべきモノであるならば、高回転が最も得意な構造と言える筈であり、高回転が最も得意な形態は、気筒間で反力を打ち消し合う180°クランクに勝るモノは無いようにも思える。270°クランクにおける最小とされる慣性トルクは結果としてエンジンにどんなメリットを与えるのか?は、今一つ明確な話が見えてこないような気がする。
或いは、上死点、下死点というピストンスピードがゼロとなる瞬間が二気筒で同時にやって来ない事をメリットとするという事なのだろうか?

270度クランクで興味深い話は、鍛造品クランクの製造工程に纏わる話。鋳造品の場合、下型、上型に囲まれた領域に注湯して製造するが、クランクウェブが気筒別に90度交錯した配置の場合、鋳型の見切り面が気筒別に異なる箇所に入る。その場合、品物に必要な抜け勾配の配置、鋳造後の鋳バリの入り方がシリンダー毎に全く異なる事となる。そうすると、素材加工工数の増大、素材重量の増大を招くために、軽量コンパクトなクランク製造が実質的に不可能となるが、それを改善するために、クランク位相を与えるのを鋳造段階ではなく、鍛造工程の熱間時に行うという処理を採用しているホンダの工法は注目すべき点だ。

他には、爆発間隔が180度クランク程近接していないためだろうか、CD125T、CM125T等の360度クランクツインの車両では良く見られた、吸排気系を二気筒で共有させる事が可能というのは、実用エンジンを形成する上では大きなメリットだろう。但し、複数気筒で吸排気系統を共有させるのは、各気筒における吸気時、排気時の雰囲気が同じでなければ難しい。各気筒間の吸排気時雰囲気が等しくなるのは、等間隔爆発である360度クランクであり、270°-450°間隔の270°クランクでは微妙に吸排気雰囲気が異なるので、吸排気系統を共有するには、二つのシリンダー内の爆発条件を等価にさせるために、雰囲気補正を施したバルブタイミングの変更が必要となるが、そこまでの配慮を施したと思えるのは、ホンダのNC系のエンジンのようだ。
勿論、二気筒に独立した吸排気系を与える場合は、バルブタイミングのシリンダー毎の調整変更は不要だが、パラツインによる不等間隔爆発によるトラクション効果?+高回転化を図るという視点で考えれば、180°クランクで独立吸気、独立排気に勝るモノは無いようにも見えるし、そのようなスポーツエンジンとしてパラツイン+270°クランク、独立吸気、集合排気というのは、今一つ理解し辛いのが個人的な感想である。

道理で考えると、270°クランクパラツインでは、高回転型のスポーツエンジンとは別の尺度での選択肢として使う方が合理的な様に見える。具体的には、低回転型でロングストローク仕様でトルク変動による鼓動感を演出するようなエンジンにこそ相応しく感じる。

吸排気共有の270°クランクで、二気筒間の吸排気雰囲気の違いをバルブタイミングで補正して燃焼状態を揃えているのであれば、NC系のエンジンは実に興味深い、ホンダらしいものとも言える。NCのエンジンの基本を眺めれば、シングルカム+ロングストロークという基本構成であり、中低速重視でトルク変動を演出させるという方向性で、非常に合理的である。
このホンダのNCのミドルツインの雛型はフィットの1.3Lエンジンがベースだという。似たようなツアラー用ツインでは、ミドルVツインであるGL500は、F1エンジンのVバンク一組分がベースと言われていた事を考えれば、隔世の感である。

パラツインで性能重視ならば、やはり超ショートストローク、独立吸排気、180°クランクだろうけど、高速性能をツインで拘るならば、超ショートストローク、独立吸排気、Vツインというのが理想のように見える。270°クランクが並列二気筒ながらVツインと同じ鼓動間隔、排気音を実現するという事は理解出来るが、やはり、高速性能を求める上でパラツインではVツインと同じにはならない気がする。パラツインでは高回転化を試みると、位相角度の違いに関わらず何某かのバランサーが必須。それ自体が動力損失になるのも事実。特に、高回転運転を望む場合は、バランサーロスは避けたいもの。

V型レイアウトは吸気排気のレイアウトが困難と言われるが、VツインはV4程タイトでなく、現実にVバンク、或いは、外側空間を見れば、独立排気ならばエキゾーストの取り回しがそれ程困難にはならない。寧ろ、シングル並のエンジン幅がもたらすエンジンマウントの自由度増加によるレイアウトのフリー化のメリットの方が大きいのでは無いだろうか、、、。

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