ダウンサイジング式ターボ
最近の車、表題の名称で表現されるエンジンが多い。
非常に小さな排気量のエンジンに過給器を装着して成立させており、VWを初めとする欧州メーカーから広く普及を始め、最近ではトヨタ、ホンダといった国産車にも見る事が出来る。基本、小さなエンジンにターボ式過給器を装着して出力を得るモノで、HVと並んで最近のエンジンのトレンドである。これ、自動車評論家も賛同する人が多く、トレンドとして増加傾向な状態からか、非を唱える人は少数派だ。
しかし、個人的には、ターボ式過給器を装着したダウンサイジングエンジンは無理があるような気がする。そして、ダウンサイジングエンジンを成立させるなら日産のような機械式S/Cの方がマトモな印象でもある。理由は、自身のプロボックスに過給器を装着して以来、アクセル開度に応じた過給圧の変化を見続けた上での感想だ。
エンジンが必要な力を得る、それは各回転域において必要な空気量を確保できるかどうか?であり、過給式エンジンでは理論圧縮比が非常に重要ではないか?という事からだ。
特に、圧力式ポンプであるターボチャージャーでは、過給効果を得るには相応の回転数が必要であり、極低回転においてのエンジントルクは過給効果より前に、エンジンの素の圧縮比と実質排気量の方が重要となる。過度なダウンサイジングエンジンでは、この極低回転域のトルクは絶対的に不足するのは不可避だろう。AT等では実際に駆動接続するタイミング次第で体感的なトルク不足を回避させる事は可能かもしれないが、そのような手法無くしてはは過度なダウンサイジングエンジン+ターボでは成立し得ない。
同じ過給器であっても圧力式ポンプではなく容積式ポンプを用いる機械式S/Cであれば、エンジン回転に応じた空気量を確保できるから、その限りではない。日産のS/Cエンジンであるとか、初期のVWのS/C+ターボならばダウンサイジングターボの成立は可能と考えられるが、少なくとも、最近の小排気量+ターボではレスポンスを重視しないミニバン、セダンといったモデルでの対応が限界だろう。更に、ターボ過給が期待出来ない低回転域において最低限のトルクを確保するには、少なくとも2L以上の排気量+相応の圧縮比のエンジンを過給するとか、コンプレッサー自体を予回転して相応の過給圧を確保した状態を維持しなければならないだろう。そうすると、排気量のダウンサイジングという意味合いも薄れるのが現実では無いだろうか?
少なくとも、昨今の2L未満のダウンサイジングターボと呼ばれているエンジンは、アクセルをグッと踏み込んだ時こそは、一定の力感、トルクが体感できるものかもしれないが、高いギアポジションで低速走行時においてアクセルを維持した状態での失速を免れるようなトルクの維持は不可能だろう。
先日、ドライバー誌でVWパサートのダウンサイジング過給エンジンの性能をNAエンジン車のそれと比較する記事を見付けたが、その中でダウンサイジング過給エンジンの公称出力、トルクが勝る数値が記載されている事を根拠に、ダウンサイジングターボの優位性が語られていたが、そもそも、公称出力等は、アクセルの一様開放下における出力曲線から数値を読みとったモノであり、負荷に対する安定性、燃焼の復元力に左右されがちな実際のドライバビリティとは異なるモノ。公称出力といったスペック数値だけでの優劣判定といえば、子供のスペック比較の次元と同様な印象が強く、そういう論調の記事が、未だに大人向けの雑誌に堂々と記載されている事に思わず笑った覚えがある。
そういう実用域での有効トルクを得るには、過給エンジンならば十分な過給圧、それが無理なら実質的な圧縮比+排気量の維持が不可欠だ。
実質的な排気量と圧縮比、それは言葉は正確ではないかもしれないが、燃焼の復元力が重要であり、燃焼復元力こそが負荷に負けないトルクの維持に不可欠である。燃焼の復元力で重要なのは、実は単質容積の排気量というよりも、ボア径が重要だ。ボア径については、燃焼に費やせる時間、条件に応じた火炎伝播を如何なる領域で維持するか?で変動するものの、維持すべき変動幅等によって異なるが、二輪車の超高回転型のモデルといった例外を除けば、二輪車でも四輪車でもボア径としては80mm~100mm程度だ。理想的には4気筒エンジンならば2000cc、高効率を求め実用性能を確保するならば高い圧縮比のエンジンであっても最低1600cc程度の排気量が必要だろう。
特に、過給器の使用を前提とするならば、過給効果が期待出来ない領域において、素の状態で負荷に負けない実排気量、圧縮比を与えるべきである。重量車、大型車で、極端な排気量ダウンサイジングによるターボ過給エンジンでは、加速状態における性能を満足させただけの選択では、実用性能が厳しい過負荷領域においては燃料供給増量によって、期待する程の燃費性能が得られない場合に陥る事となる。同じ排気量ダウンサイジングを図るならば、マルチシリンダーエンジンにおいて気筒休止機構を取り入れたエンジンの方が優れる場合も有り得る訳だ。
排気量のダウンサイジング過給エンジン全てを否定するものではないが、実用車における使用想定回転域である停止~最高回転数の1/3という領域で優れたドライバビリティを得ようとすれば、今のような排気量ダウンサイジングが最適解とは言いきれない。過給効果が期待出来ない領域におけるドライバビリティ維持のための排気量、圧縮比を確保した上でのターボ化して中高回転域における出力を上乗せするというのが合理的だ。
ダウンサイジングターボというよりは、チョット昔のロープレッシャーターボ的なターボの使い方である。如何に、ターボ過給が効かない領域でトルクを確保するために圧縮比を高める事が出来るか?そして、その上で見合った出力を得るための過給圧を上乗せできるか?が鍵だろう。これをレギュラーガソリン仕様で実現するというのが一つの方向性だ。
そのようなエンジンフィールというのは、通常NAのエンジンに後付けでS/C等を装着したようなエンジンに近いものと推測される。低回転域ではエンジンの素の力で十分だけど、過給が加わる事で、過給時は大きなエンジンのような力感を得る事が出来るイメージだ。そして、ターボによるトルクの上乗せ効果を得るには、如何に低回転から過給させるか?が鍵となりそうだ。無過給域でトルクを発生させるためには、相応の排気量で相応の車格を担うモノに限定するという方が自然にも考えられる。
逆に、負担の小さな実用車ならば、エンジンの極端な小型化による損失増大を考えれば、エンジンのボリュームを保った高圧縮型のエンジンで効率を追求する方が結果的に高い効率と優れたドライバビリティが実現出来るのでは無いだろうか?1000cc以下のダウンサイジング過給エンジンよりも、1500cc程度のNAエンジンなら、どちらが実用性能が優れるか?というと、流行りや目新しさで1000ccクラスのダウンサイジング過給エンジンが必ずしも優れているとは考えづらい。
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