経営者の資質
同族会社に勤務して、経営者二代のやり方、それから次の経営者となるであろう三代目のやり方を見て感じた事がある。
経営者に必要な資質はなにか?というと、何はともあれ先見性という事になるような気がする。優れた経営者は、短い未来、長い未来の双方を見つめ、そこで求める形を実現するために、経営資源を適切に振り分ける能力に長けているように思う。経営資源を適切に振り分ける能力を持つという言葉の裏には、有する経営資源の実態を把握し、属す業種における戦力状況を的確に把握し、どの部分に、どの程度の経営資源を投下するかを的確に判断する能力が必要という事は言うまでもない。
このような視点で見ると、今は現役を退いた先代の経営者というのは希有な存在だったように思う。それを引き継ぐ今の経営者、将来引き継ぐであろう次の経営者には、残念ながら、そういった面を感じる事が出来ない。
何故に、そのようなカリスマを感じる事ができないか?というと、一言で言って具体的なビジョンを描く先見性が兎に角不足しているような印象が拭えないからだ。
この先見性というのは、経営者の資質で不可欠なものだが、経営者が先見性を持つための必要条件というのが何か?を考えると、自分の考える必要条件が圧倒的に欠けている、或いは、欠けた必要条件を周辺で補うという意識が欠如している事が原因のように思える。
先見性とは、経営資源を振り分ける能力、振り分けるには現状を認識する力であり、現状を認識する力というのは、属する業種の本質の理解度が兎に角必要なのである。業種において必要な知識と常識を備えていなければ、経営資源の投下戦略も描けない。欠けたままで行える事といえば、現在進行形で発生するトラブルへの対応と、価格競争を武器とした市場維持といった事に限定されるのである。
異論があるかもしれないが、小さな企業である程に、経営者には業種における専門性が必要と言える。大きな企業で、経営が経営者ではなく経営陣によって行われる企業であれば、必ずしも、そうではないかもしれないが、経営陣ではなく経営者が船頭となっているような企業においては、経営者が業種における本質の理解度が兎に角重要と言える。
優れた経営者は、優れた先見性を発揮するが、先見性とは、問題が起こっていない現状があったとしても、自身の思い描くビジョンに従って経営資源を投下するべきプロジェクトを起案したり、訪れるであろう未来に対応する時に現状の体制で破綻するであろう問題点を問題が発生する前段で余地し、問題の発生前に対応できるような隠れた問題を提起する力を持っているものである。
このような近い未来、遠い未来におけるリスクを予め回避するための手立てを先回りして打つ力こそが、優れた経営者の必要条件と言えるだろう。
これを経営者の資質として、三代に渡る経営者と候補者を評価してみると、先代の経営者として優れた能力を今更ながら感じる事が出来るのである。逆に、現世代、次世代の経営者に、そのような能力が備わっているか?というと、個人的には現状では厳しいというのが素直な感想である。
先代と現役、次世代を比較して何が違うか?というと、先見性を発揮するための、現状分析力と業界動向の診断力の石杖となる業種の属する分野の知識と常識の有無に帰結するのでは?と考えている。
この企業は製造業であるが、製造業が今の形を作るに到った経緯を理解し、それがもたらす意味、それを守る上で必要な技術といった部分の伝承が、経営者の代替わりの際に行われていないのが、能力差の原因であると言える。
勿論、全く同じ方法で企業を導く必要は無いが、少なくとも、経営者自身が有さない能力があるのであれば、それを補う仕組み作りを行う必要があるが、その部分が欠けているために、企業がこの業界で生き残っていくための先見性を発揮出来ないといえる。
製造業では、その業種において製品競争力を維持する事が利益を得るための唯一の手段であり、製品競争力を維持するには、同じ目的の製品の性能が他社製品に対して先んじていなければならない。これは大原則である。それを近い未来から遠い未来に渡り維持し続けるためにすべき事は何か?これを阻害する要因は何処にあるか?何が問題か?という問題提起する力が何よりも重要なのである。
経営資源が豊富とは言えない企業において、時代を読む先見性の精度が企業の将来を占っているといってよい。所謂、選択と集中が的確に行われるかどうか?が鍵となる。
地元の自動車メーカーのマツダの昭和40年代からの浮き沈みを見ると、時代の読み方が正解とは言えない時期は苦境に立たされ、そして、経営の主導が業種の人間以外に担わされていた時は、縮小再生産的な守りの経営で魅力が乏しかったのが良く判る。現在の勢いは、原点に立ち返った上で、選択と集中を高い精度の先見性で実践している結果なのが良く判るものである。どの業種でも、企業経営が立ち行かなくなり厳しい状況に追い込まれているのは、先見性の無さによる的外れな選択と集中を行ってきた結果に過ぎない。そして、そのように追い込まれている企業というのは、企業の本業の論理を理解していない経営者、経営陣が諸悪?の根源と言える。
ただ、企業が生き残っていく上で、製品競争力を維持するために何が必要か?という先見性を見抜いたとしても、そこに投下出来る経営資源を全ての企業が有している訳ではない。特に中堅企業以下では、先も見えなければ、経営資源を集中させるべき戦力も有していないのが現状である。ただ、出来ないといって手をこまねいていれば衰退が待っているだけである。長い歴史を持つ企業では、中堅、中小企業であったとしても、業界をリードする力が備わってきたのは事実であり、それが如何なる方法でもたらされてきたのか?を、時の経営者は冷静に分析し、次代において実践できるか?を考える事が、企業を成長させるために不可欠となってくる。
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